第20章 Omen…
深夜に降り出した雨は、夕方を過ぎても止むことはなく…
そんな天気にも関わらず、妙に明るく振る舞い、仕事に出かける智を見送った。
本当のところはどうなのは分からないけれど、倒れたと聞いた以上、不安が無いわけじゃない。
寧ろ不安だらけだ。
それに加えてこの天気だし…
また倒れたりしなきゃいいけど…
たまたま仕事の入っていなかった俺は、胸の底に溜まった不安と、そして智に感じた違和感に、一人悶々とした時間を過ごした。
そんな時、薮から入った一本の電話が、俺のスマホを震わせた。
仕事の連絡以外、薮から連絡が入ることほ滅多にない。
まさか、また倒れたとか…?
俺は直ぐ様通話ボタンをタップすると、スマホを耳に宛がった。
「もしもし? どうしたの?」
不安を気取られないよう、平静を装う。
「あの…、ちょっとお聞きしたいことがあって…」
いつもはハッキリした口調なのに、珍しく口篭る薮に不安が過ぎる。
「何だよ…、言ってみろよ」
「実は、どうも智さんのことを探してる、って人がいるらしくて…」
「智のことを…?」
「貴族探偵…って言ったっけ…、おかしな名前の探偵まで雇ってるらしくて… 」
貴族探偵?
聞いた事のない名前に、俺は電話越しに首を傾げた。
でも探偵まで雇って智を探してるってなると、考えられるのは一人だけ…
翔さんしかいない。
「お前、その話を誰から?」
「俺も人伝に聞いただけで、ハッキリとしたことは分からないんですけど、どうも風磨が元々通っていたダンススタジオの講師と、最近になって頻繁に会ってることがオーナーの耳に入ったらしくて…。その時に、その貴族探偵に智さんのことを…」
うっかり喋ってしまった、ってことか…
風磨と言えば、智が付きっきりでダンスのレッスンをしていたアイツだよな…
「で、その風磨って奴はどうなった?」
もし、その貴族探偵とかいう奴が翔さんが雇った探偵だとして、間接的とはいえ、翔さんと関わりを持った風磨を、あのオーナーが黙って見過ごす筈はない。
だってあのオーナーの智に対する執着は、俺から見たって相当根深いものがあるから…