第20章 Omen…
マンションに帰ると、早速非常用にストックしておいたカップ麺に湯を注ぎ、それをペロリと平らげた智は、まるで糸が切れてしまったように、ベッドに横になり、ものの数秒で気持ち良さそうに寝息を立て始めた。
以前はそんなことなかったのに…
どれだけ自分が眠たくても、必ず俺が食べ終えるのを待ってから、漸くベッドに潜り込んでたのに…
俺と目を合わすことすら出来ないくらい…、会話をすることも出来ないくらい、疲労がピークに達してるってこと?
そうなの、智?
俺は伸びきったラーメンを食べる気にはなれず、すっかり寝入った様子の智を起こさないよう、ベッドの僅かに空いたスペースに身体を潜り込ませた。
まるでお腹の中の胎児のように身体を丸めて眠る智に腕を回し、いつもと違う香りを放つ髪に鼻先を埋めた。
そうしていると、自然に睡魔が襲ってくるから不思議だ。
「おやすみ、智…」
当然、返事なんて返ってくる筈もなく…
俺はほんのちょっとの寂しさを感じながら、瞼をゆっくり閉じた。
深夜…
トイレに目を覚ました俺は、腕の中にある筈の智がいないことに気付いて、明かりの消えた部屋の片付け中をグルリと見回した。
すると、どこからともなく歌声が聞こえて来て…
「智…なの?」
俺が声をかけると、ピタリと止んだ。
目を凝らし、微かに月明かりの差し込む窓辺に視線を向ける。
ちゃんと閉めたつもりの窓から吹き込む風に、カーテンの裾が揺れ、膝を抱えて座る智がそこにいた。
「何してんの? 風邪引いちゃうよ?」
膝を抱えた手に触れると、氷のように冷たくて…
俺は窓を閉め、傍にあったブランケットを手に取ると、智の肩にそっとかけた。
「智? 眠れないの?」
冷たくなった手を擦りながら問いかけてみるけど、俺の声が届いていないのにか、智からの反応はない。
それどころか、ただ一点だけを見つめた目はとても虚ろで…
「智? ねぇ、智ったら…」
不安になった俺は、少々声を荒げ、乱暴に肩を揺すった。
「えっ…、あぁ…、ニノか…」
ハッとしたように肩をビクンと上げた智が、顔ごと視線を俺に向けた。