第20章 Omen…
「それで、近藤は何て?」
俺の問いかけに、光は記憶を数分前まで遡るように視線を巡らせた。
この様子だと、気が動転して、ろくに覚えちゃいないかもしれない。
期待は出来ないな…
その俺の予想は見事的中で、
「それがその…、あんまり覚えてなくて…」
案の定、光は近藤との会話を殆ど記憶していなかった。
「あ、でも、近藤様も酷く慌てた様子だったことは覚えてます。いつも冷静沈着な方なのに、“早くしろ”なんて声を荒げられたりして…」
俺も実際に近藤と会ったことはないけど、智から話を聞く限り、光の近藤に対する印象は間違っていないと思う。
「そうか…、それで部屋に?」
光は無言で頷いた。
「でも客は?」
「それが変なんですよね…。俺が近藤様から連絡を貰って部屋に駆け付けた時には、お客様はもう帰られた後で…。それに、智さんも普通で…、近藤様か心配されていたような様子はなくて…」
それだけを言うと、訳わかんないっすよ…、と光は頭を抱えてしゃがみ込んでしまった。
無理もないか…
光が混乱する気持ちは、俺にも分からなくもない。
連絡を受けた時の、光の心境を考えると、それ以上話を聞くのは酷だと感じた俺は、
「悪かったね、世話かけちゃって…」
光と同じように俺もその場にしゃがみ込むと、ガックリと落ちた肩に手をかけた。
「いえ、俺の方こそ和也さんに迷惑かけちゃって…、すいませんでした」
「いや、寧ろ教えてくれて助かったよ。あ、それでこのことは…」
「分かってます。こんなことがオーナーの耳に入ったら、俺だって…」
だよね…
「あ、でも薮が…」
「それなら大丈夫です。宏太は喋ったりしませんから」
不思議そうに首を傾げて見せた俺に、光は今日初の笑顔を見せた。
「そっか…、光がそう言うなら、先ずは安心か…。それにしても、智遅くない?」
俺達が部屋を出てから、もう随分経つのに、智が部屋から出てくる気配は一向にない。
「そう…ですね。あ、もしかして倒れてるとか…」
「えっ、まさか…」
言われて急に不安が過ぎる。
俺が駆け付けた時には、そんな素振りは見せなかったけど、もしかして…
立ち上がった、その時…
それまで閉じていたドアがゆっくりと開いた。