第20章 Omen…
「なあ、光? お前、どうして智が倒れたことを知った?」
俺達が仕事をしている間、俺達を目的地に運ぶためだけに雇われた運転手である光達は、一切部屋に立ち入ることはしない…いや、寧ろ出来ない。
それは薮も同じだ。
俺達が仕事を終えるまで、運転手はロビーで待つことがルールになっている。
だから、光が智が倒れたことを知るには、智が直接光に電話を入れるか、若しくは客自ら…ってことになるけど、それだってよっぽど光自身が客から信頼されていなければ、有り得ない話だ。
でも智のあの様子からして、自分から光に電話をしたとは到底思えなかった。
「それは…あの…、ある方から連絡を貰って…」
「ある方…って?」
他言しないよう、よっぽどきつく言われているのか、光は目を落ち着きなく泳がせ、口を開こうとはしない。
そりゃそうだ…
もし光が個人的に客と連絡を取り合ってる、なんてことがオーナーの耳にでも入ったら…
光は確実に酷い目に合わされることは目に見えている。
現に、薮が俺に付く以前にいた運転手は、客の情報を外に漏らしたことが原因で、拷問紛いの折檻を受けたと聞いている。
まあ、それだって噂の域を出ないんだけど…
「誰にも言わないからさ…。な、光?」
俺を信じてくれ…
「分かりました。でも絶対に誰にも言わないで下さいね?」
暫く考えた後、光は大きく息を吐き出し、首を振った。
「実は、俺に連絡をくれたとは、近藤様なんです」
「近藤…って、智の客の…?」
確か、セックスもろくにしないのに、随分と可愛がって貰ってると、智から聞いたことがある。
でもその近藤がどうして…
「えっ、でもどうして近藤が?」
俺達が持たされている携帯は、発信はおろか着信にも制限がかけられていて、特定の相手にしか繋がらないようになっている。
事実、俺が智が倒れたことを聞かされたのは、薮からだった。
俺が光と直接連絡をとることも出来ない。
それを考えれば、智が近藤と取り合う、なんてことは、現実的に不可能な筈だ。
「そうなんですよね…、だから俺も何がどうなってるのか、さっぱり分からなくて…」
光は首を傾げると、もう一度ドアに視線を向けた。