第20章 Omen…
智が倒れた…
そう智の運転手の光から、連絡を貰ったと薮から聞いた俺は、仕事終わりの気怠い身体を引き摺り、ホテルに駆け付けた。
俺の行動が、車の運転経路から監視されていることも分かっていた。
でも智が倒れたと聞いた以上、放っておくことは出来なかった。
後からお叱りを受けるのも、勿論覚悟の上だ。
「一体どう言うことなんだ…」
「それが俺にもさっぱり…」
聞いていたホテルの一室に駆け込んだ俺に、光はただただオロオロとするばかりで、光自身何が起きたのかは分かっていない様子だった。
そして当の智はと言うと…
「ニノ…? 何でお前がここにいんだよ、仕事は?」
何事もなかったように、いかにも肌触りの良さそうなバスローブを纏った姿でバスルームから出てきて…
そう…、それこそケロッとした顔をして…
「だ、だって智が倒れたって聞いたから、俺驚いて…。で、大丈夫なの?」
「ああ…、なんでもねぇよ…。大したことない」
駆け寄った俺の手を払い、智がベッドにボスッと腰を下ろす。
口では何ともないって言ってるけど、その顔は風呂上がりだというのに、いつもより青白く見える。
俺に心配させないように…、だろうか…
明らかに無理しているようにも見えなくはない。
「本当に大丈夫…なの?」
床に膝を付き、血の気のない顔を覗き込むように見上げる。
でも智は俺の目を見ることなく顔を背けると、
「しつこいって…。んなことより、俺着替えたいんだけど…、出ててくんない?」
感情の一切籠らない声で言い放った。
「あ、ああ…、分かった。じゃあ外で待ってるから…」
俺は違和感を感じながらも、未だ動揺したままの光の背中を押して部屋を出た。
「いいんですか、一人にして…」
柔らかな絨毯を敷き詰めた廊下に出るなり、光は閉ざされたドアをチラチラと横目で見ては、廊下をウロウロと歩き回る。
「落ち着けって…」
「でも…」
落ち着かないのは俺だって同じだ。
智が無事だったことに安心はしたが、一瞬感じた違和感がどうしても拭えなくて…
俺は壁に背中を預け、そこにしゃがみ込むと、頭を抱え込んだ。