第3章 Collaboration…
翔さんに言われて漸く諦めがついたのか、智はフラフラと立ち上がると、
「シャワーして着替えてくる」
それだけを言い残してリビングを出て行った。
その背中があまりにも悲しそに見えて、
「ねぇ、俺なんか悪いこと言っちゃったかな?」
空になったお皿やマグをシンクに置き、リビングの床にペタンと座った俺は、ローテーブルに両肘を載せて、タバコを吹かし始めた翔さんを見上げた。
でも翔さんは別段気にする風でもなく、
「気にすんな。アイツもいつかは乗り越えなきゃなんねぇんだから。ま、俺としてはこれで売り上げ伸びんなら、願ったり叶ったりなんだがな?」
視線をノートパソコンから上げることなく言った。
“売り上げ”か…
確かにオレ達みたいな仕事はかなり特殊だし、なんならファン層だってある程度限定されるから、必ずしも身入りのいい仕事とは言えない。
それでも競走相手の少ない世界だから、恵まれてるって言ったらそうなのかもしれないけど…
NO.1ダンサーの智と、No.2の俺が組めば確かに話題にはなる。
それはイコール売り上げに繋がる、ってことも分かる。
でもさ、翔さん…
そんな言い方寂しいよ…
俺はともかくとして、智が聞いたらどう思うんだろう…
智のことだから、
『世話んなってんだから、売り上げに貢献すんのは当たり前だろ?』
なんて笑うんだろうか?
そんなのあんまりだよ…
「ねぇ、翔さんはさ智と付き合ってるんでしょ?」
「ん? まあな、少なくとも俺はそう思ってるよ?」
「じゃあさ、智が人前で裸になること、何とも思わないの? その…さ、全部見えちゃうじゃん? 嫌じゃないの?」
俺の問いかけに、それまで流れるようにキーボードの上を滑っていた手が、ピタリと止まった。