第19章 Clue…
聰の話によれば、あの店で働くダンサーや黒服達は、ほぼ全員がMJがどこからか連れて来た少年達ばかりで、中でもダンス経験がある奴だけが、ダンサーとしてステージに立っているらしく…
小学生の頃、ほんの数ヶ月だけだが、ダンススタジオに通った経験があった聰は、当然のことながらダンサー組に配属された。
ダンサーと言っても、数十人は集められた少年達は皆素人同然で、そこで講師役としてMJが連れてきたのが、おそらくは智だ。
講師と言いながら、一切踊ることなく、カウントもろくに取れなかったと言うんだからほぼ間違いないだろう。
そしてオープンを一週間後に控えたある日、MJから直接指名を受けた一人だけが、智の特別レッスンを受けることになり、スタジオに残された。
その一人が、坂本のスタジオに通っていた風磨だ。
その後、スタジオに残された風磨と智の間に何が行われていたのか…、聰自身は一切知らされていないという。
おそらく、その時にあの曲の振りを写したんだろうな。
それも智自身が直接風磨に…
そうでなけりゃ、杮落しと、智の最後のステージ…、その二回しか公には披露されていない振り付けを、完璧、とまではいかずとも、あそこまで似せられる筈がない。
勿論、劇場では動画の撮影も禁じているから、智が踊る姿を収めた映像が存在する筈もない。
俺だって持っていないのだから、それは確実だ。
だとしたら、やはり智が直接風磨に振り入れをしたと考えるのが妥当だ。
そして、オープン当日に俺達を招待したのも、あのステージを見せるためだろう。
随分とコケにされたもんだな…
「今日はわざわざ来て貰って済まなかったね」
「いえ、とんでもないです。僕の方こそご馳走になっちゃって…。あの、お役に立てましたか?」
伝票を手に先に席を立った俺達に続くように、聰は慌てて腰を上げると、俺達に向かって頭を下げた。
「勿論だよ、色々聞かせて貰っちゃって、こっちこそごめんね? もし良かったらまた会えるかな? あ、勿論君さえ良ければ、だけどさ」
「はい、喜んで!」
計算なのか、それとも”素”なのか…、雅紀の爽やか過ぎる笑顔に、顔を上げた聰の目はすっかりハート形になっていた。