第19章 Clue…
また連絡するかもしれないことを聡に伝え、カフェを出た俺達は、その足で劇場へと向かった。
支配人室に一人籠った俺は、早速ボイスレコーダーのデータをPCと、プライベート用のスマホにコピーした。
そうしておけば、たとえデータが破損したとしても、データが全て失われることはない。
念には念を入れて、ってやつだ。
「さて、と…」
俺は一つ伸びをすると、今度は劇場のホームページをPC上に立ち上げた。
このところホームページのチェックすら、ろくに出来ていない。
理由は簡単だ…
寝ている時間以外は、智のことばかりが頭の中をチラついて、仕事が手につかなくなるからだ。
本音を言えば、仕事なんて全部ほっぽり出して、智を連れ戻しに行きたい。
でもそんなわけにもいかないのが実際で…
どうにもならないジレンマに陥りそうになるのを、どうにかこうにか食い止めるだけの日が続いてる。
「何やってんだろ、俺は…」
どうしてこうも惚れちまったのか…
諦めの悪さに、自分でもいい加減呆れる。
いや、寧ろ“智だから”なのか…?
智だから俺はここまで…
俺は空になった煙草の箱を手の中でクシャッと潰すとデスクの横に置いたゴミ箱に放り込んだ。
その時、支配人室のドアがノックされ、俺の了承を得る前に開いたドアの隙間から、
「翔ちゃん、今ちょっといい?」
雅紀が顔だけを出した。
「ああ、別に構わねぇけど? 俺も丁度お前に相談したいことあったから…」
ずっと変えてなかったホームページを、これを機に一新しようと思っていたところだったから丁度いい…、そう思っていた俺に、雅紀は「それがさ…」と顔を険しくすると、後ろを振り返った。
「貴族探偵…来てるんだけど…。入って貰っていい?」
「今…か?」
「うん、まさかこんなに早く来ると思ってなくてさ…。もし都合悪ければ帰って貰うけど…」
「いや、通してくれ」
仕方ない、近いうちに会いたいと連絡を入れたのは俺の方だ。
ただ、雅紀同様、こんなに早く来るとは思わなかったけど…
それに貴族探偵のことだ、手ぶらで来る…ってことはまず考えてさられない。
俺は短くなったタバコを灰皿に揉み消した。