第19章 Clue…
「一体どうしたって言うの、急に迎えに来いなんて…。それもスーツ着用って…」
助手席に乗り込むなり、雅紀が不満そうに唇を尖らせた。
雅紀が不満に思うのも無理はない、俺の記憶が正しければ、午前中の休みを利用して、茂子さんの店に行くと言っていたからな…
「ちょっと思い付いたことがあってさ…」
「何よ、思い付いたことって…」
「お前さ、名刺貰ってたよな、俺達の席に着いたダンサーの…。今持ってるか?」
名前も顔もハッキリ覚えちゃいないが、それなりに可愛い顔をしていたのは覚えている。
「ああ、うん…確かここに…。あ、あったあった」
ケツのポケットから抜き取ったくたびれた財布を開き、レシートの束の中から名刺だけを取り出した。
「これでしょ?」
「おお、それだ。つか、お前財布の中くらい整理しとけよな? 金貯まんねぇぞ?」
親父の口癖を真似てみる。
実際、そんな迷信みたいな話を信じちゃいないが、俺の財布の中はいつも綺麗に整頓されている。
部屋は酷い有様だけど…
「で? こんな物どうすんのさ…。ってか、まさか翔ちゃん、変なこと考えてんじゃないだろうね?」
珍しく勘の鋭い雅紀が、名刺を手にしたまま、狭い車内のシートの上で後退る。
「その“まさか”だ。」
俺は雅紀の手から名刺をピッと引き取ると、最近になって新しく契約した携帯電話に、そこに書かれていた番号を入力した。
「えっ、ちょっとその携帯なに…?」
「これか? これは…お前が使え」
「は? ど、どういう意味? 分かるように説明してよ」
「別に理由なんてねぇよ」
ただ、なんとなく…だけど、プライベート用にしろ仕事用にしろ、利用目的を考えると、使う気にはなれなかったし、不安を感じただけ…
だからこの携帯電話自体、名義は架空の物になっている。
俺は全ての番号を入力した電話を、ひたすら訝しむように首を雅紀に差し出した。
「えっ、お、俺…?」
「当たり前だろ? 名刺貰ったのお前だし…」
それに相手の警戒心を払拭するには、雅紀みたいな天真爛漫を絵に書いたような人間は打って付けだしな。
「君のことが気に入ったとかなんとか適当に理由付けて、デートのお誘いでもしたらどうだ?」
「マジか…」
雅紀は苦笑を浮かべながらも、コールボタンを押した携帯電話を耳に宛てた。