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踊り子【気象系BL】

第19章 Clue…


「お忙しいところお邪魔しました」

玄関先で礼を言って智の家を出る。

手に下げた紙袋がズシリと重くを感じるのは、アルバムや携帯電話だけの重みじゃない。

智の両親の、息子を思う気持ちが、この紙袋の中には一緒に込められているからだろうな…

助手席に荷物を置き、運転席に回ろうとした時、開いた小さな門から、智のお袋さんが飛び出してきて、ドアノブにかけた俺の手を握った。

「あの子のことお願いします。あの子電話口で言ったんです、私が今は幸せなのか、って尋ねたら”幸せだ”って…そう言ったんです。それから好きな人が出来たと…。心から尊敬出来る人なんだ、って…」

「好きな人…ですか…?」

「ええ、だから幸せなんだって…」

貴方のことですよね、と母親の濡れた瞳が俺に語りかける。

「アイツ…そんなこと俺には一度だって…」

何でだろう…、胸が熱くて、でも苦しくて…

智の両親の前で、みっともない姿は見せないでおこうと心に決めていたのに、その決心さえ揺らぎ…

気付いた時には、俺の目からはポロポロと涙が零れ落ち、俺の手に重ねられたお袋さんの手を濡らしていた。

「あの子がどういう理由で、またあの彼の元へ行ったのかは分かりません。でもあの子、きっと貴方のことを待ってます。貴方が迎えに来てくれるのを…」

母親だから分かるんです…、そう言ってお袋さんは智とよく似た、柔らかな笑みを浮かべた。

「だからどうかあの子を…、智を…」

「分かりました、俺も全力を尽くします。俺も智のことを愛してますから…」

誰にも、智にすら打ち明けたことのない俺の本音を、智のお袋さんがどう受け止めたのかは分からない。

でもそこに一切の嘘も偽りもなくて…

俺はお袋さんと、そして門の前で成り行きを見守っていた親父さんに頭を下げると、車に乗り込んだ。

「また何か分かり次第連絡します。それから、もし智から連絡があった時は…」

俺はポケットからカードケースを取り出すと、中の一枚を抜き取りお袋さんに差し出した。

「ここに連絡を頂けませんか? 何なら俺の携帯電話でも構いませんので…」

俺はお袋さんが頷くのを確認してから、漸く車のエンジンをかけた。
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