第19章 Clue…
どうしてだか、真っ直ぐ劇場に帰る気にはなれなくて…
以前に比べれば客足は少なくなったとはいえ、劇場の切り盛りをしていてくれている雅紀に申し訳けなさを感じつつ、俺は智が毎夜ダンスの練習をしていたという公園に立ち寄った。
そこはどこにでもあるような、ごく普通の公園で、夕暮れ間近だと言うのに全く人気(ひとけ)がなく…
「ここで、智は毎日のように…」
コンクリートで出来た冷たいベンチに腰を下ろし、汗を流して無心で踊る智を思い浮かべた。
こんな何もない公園が、アイツにとってのステージだったんだな…
ここでダンスの腕を磨きながら、いつかデカいステージに立つことを夢見ていたんだろうか…
そんなお前にとって、劇場のあの小さく、古びたステージは、きっと物足りなかっただろうな…?
なあ智…、お袋さんはああ言ってたけど、お前は本当に幸せだったのか?
なんか俺…、もう分かんねぇよ…
日も暮れ、劇場に戻ることなくマンションに帰った俺は、スッカリ散らかってしまったリビングのソファーに、疲れた身体を投げ出した。
やらなきゃいけないことは、無限に溢れている。
仕事にしても、智のことにしても…
でもそのどれもが億劫で…、何もやる気にはなれない。
それでも無理矢理身体を起こし、散らかったテーブルの上にアルバムを開いた。
智の成長を綴ったアルバムには、俺と出会う前の…、まだ何の穢れも知らず、両親の腕に抱かれて笑う智の姿が溢れていて…
胸が詰まる思いに、俺は途中まで捲ったアルバムを閉じた。
まるで天使のように、無垢な智の笑顔を、俺が奪ったのかもしれない…
そう思うと、それ以上は見ていられなかった。
俺が智を拾ったらしなければ…
俺と出会ってさえいなければ…
俺が智を愛しさえしなければ…
もしかしたら智は今よりも楽に生きていられたのかもしれない。
あの時…
智の望む通り、死を選ばせてやっていれば…
両親の、息子を思うがあまりついた嘘に振り回されることもなかったかもしれない。
でもな、智…?
もう遅いんだ…。
気付いちまったんだよ、俺…
俺…、お前がいなきゃダメなんだ。
だから智…
俺はお前をこの手に取り戻す。
どんな手を使ってでも…