第19章 Clue…
知ってる…
智の親父さんは、この男の正体を知ってる…
親父さんの反応からそう確信した俺は、更に深い話を投げかけてみることにした。
「あくまで噂なんですが…。今智はこの写真の男性の元にいるという噂を耳にしまして…」
確証が無いわけではない、二人並んで写る写真を見れば、二人が一緒にいることは一目瞭然だ。
ただ、現状得ている情報を、智が今置かれている状況をありのまま打ち明けるのは、あまりにも酷なんじゃないか…
智が売春紛いの仕事をさせられていると知ったら…
こんな仕事を生業としている俺ですら、強い衝撃を受けたんだ…、親ともなればそのショックの大きさは計り知れない。
「あの…もしやこの男性をご存知なのでは…? もし知っていることがあれば…」
何でもいい、教えて欲しい…
「この写真はいつ頃撮られた物なんですか?」
「恐らく、ここ一ヵ月の間だと思いますが…、どうして?」
質問に質問で返した俺に、親父さんは一言「そうですか…」と言ったきり、無精髭を生やした口元をキュッと結んだ。
そして、一瞬天を仰いだかと思うと、俺に向かって椅子に座るよう言った。
俺は言われるまま勉強机の椅子に腰を下ろすと、ベッドに座った親父さんの方へ、身体ごと向きを変えた。
「もう二度と彼の顔を見ることはないと思ってたんですがね…。まさか日本に帰って来てるとは…」
親父さんは膝の上に置いた手を強く握り締めると、信じられないとばかりに首を振った。
「櫻井さん…でしたね? 貴方が智からどこまで話を聞いてるかは知りませんが、彼は智の所謂“恋人”ってやつでしてね…」
「智の恋人…ですか…? それなら、一人だけ…」
言いかけたところでハッとした俺は、親父さんの手から写真を引き取ると、写真の中の横顔をまじまじと見つめた。
「まさか、そんなこと…」
どうして今まで気が付かなかった…
何度も何度も、それこそ目を皿のようにして見てきた筈なのに…
MJが松本潤だと言うことに…
「松本…潤、ですか…? この写真の男が松本潤だと…?」
「そうです。ご存知だったんですね…」
親父さんはベッドから腰を上げ、窓辺に立つと、閉め切ったままの窓を開けた。
すると途端に吹き込んで来た秋の冷たい風が、俺の体温を全て奪って行くような…、そんな気がした。