第19章 Clue…
「ここが智の部屋です」
親父さんの案内で二階に上がった俺は、言われてゆっくりとドアを開くと、微かに智の匂いの残る部屋に足を踏み入れた。
「そのままにしてあるんですよ、いつ帰って来てもいいようにね…」
そう言った親父さんの言葉通り、時を止めてしまったその部屋の至る所に、智がそこで暮らしていた痕跡が残っていて…
壁にかけられた制服に目を向けると、胸ポケットの部分がやけに膨らんでいることに気が付いて、俺はポケットの中に手を突っ込んだ。
中に入っていたのは、おそらく制服用の物だろう、ネクタイで…
「アイツ…、自分でネクタイ締めらんねぇくせに…」
ふと、杮落としの日の朝、鏡の前でネクタイ方手に悪戦苦闘する智の姿を思い出して、思わず笑いが込み上げた。
あれからまだそんなに月日が流れたわけでもないのに、遠い昔のように感じるのは、何故だろう…
「どうかされましたか?」
感慨に耽っていたところを突然声をかけられ、俺は咄嗟に目尻に溜まった水滴を拭った。
「いえ、なんでも…。ところでアルバムは…」
振り返った俺に、親父さんは勉強机の上を指差し、それならここに…、と言った。
毎月購読していたんだろうか、発行月順に並べられた漫画雑誌の片隅に追いやられるように立てられたアルバムを一冊手に取った。
「暫くお預かりしても?」
「どうぞどうぞ。あとこれ、智が家を出る直前まで使ってた携帯なんですけどね…、もし良かったらこれも…」
「それは有難い」
携帯電話は、言わば“個人情報の宝庫”とも言える代物だ。
もしかしたらこの中から、何かしらの情報が得られるかもしれない。
思いがけず得られた大きな収穫に、俺は期待に胸を膨らませた。
「あ、そう言えば…」
俺は胸のポケットから一枚の写真を取り出し、親父さんの前に差し出した。
MJと呼ばれる男に肩を抱かれ、例のショーパブに出入りする智の姿を捉えた写真だ。
尤も、そこに智の姿は写っていないくて、MJの姿だけを拡大プリントした物だけど…
親父さんは俺の手から写真を受け取ると、まじまじとそこに写っている人物の姿を見つめた。
すると、みるみるうちに親父さんの表情が強ばり、写真を持つ手がプルプルと震え出した。