第18章 Emotion
結局近藤とはセックスすることなく時間は過ぎ…
「また来週会えるかな?」
来た時と同じ、近藤の腕の中で次の約束を交わした。
尤も、俺達の間に“確約”なんてモンは存在しない。
俺達への指名は、所謂早いもん勝ちってヤツで、そこに俺達が勝手に交わした約束は何の関係もない。
だから今この場で次の約束を交わしたとしても、それが必ずしも守られるという保証はない。
近藤もそれは承知の上だ。
「俺も下まで行こう」
玄関で俺を下ろした近藤が、珍しく俺を送ると言った。
今まで何度か会ってはいるが、そんなことを言われたのは初めてのことで…
正直、戸惑う…
二人で並んでエレベーターに乗り込んだ所で、近藤が数字を見上げた視線は変えることなく、俺の耳元に口を寄せた。
キス…、されるのかと思った俺は、一瞬肩を竦めた。
でも実際はそうではなくて…
「君は貴族探偵と言う男を知っているか?」
周りに誰もいないのに…、俺達二人しか存在しないのに、小声で呟くような近藤の声に、俺は言葉ではなく小さく首を横に振って答えた。
「そうか…。実は俺の友人でね、趣味で探偵の真似事をしている可笑しな男がいてね…」
「ソイツがどうしたってんだよ…」
「人を探しているらしくてな…。特徴が君に似ていたから、ついね…」
近藤はそこまで言うと、気にしないでくれ、と一言言ってから俺の手に大きな紙袋を握らせた。
「何だよ、これ…」
この匂い…、まさかと思うけど…
「一緒に住んでいる友達と食べなさい」
やっぱりか…
ニノは俺程甘い物は得意じゃないけど、折角だし…
俺は近藤からの好意を、有り難く受け取ることにした。
「ありがとな…」
礼を言ったその時、エレベーターのドアが静かに開いた。
「じゃあ俺はここで」
「またな…」
互いに右手を上げた所でドアが閉まりかける。
でもそのドアは完全に閉じることはなく…
「智」
呼びとめられ、一度は返した踵を元に戻した。
「何だよ…」
「箱…、冷蔵庫に入れる前に確認するんだぞ」
「は? ああ、分かったよ。じゃあな」
近藤が何を言いたいのか…、理由も分からないまま頷いた俺は、笑顔だけを返すと、車に向かって駆け出した。
近藤の言葉の意味が分かったのは、マンションに帰ってからだった。