第18章 Emotion
それは、マンションに帰って、近藤から持たされたケーキの箱を冷蔵庫に仕舞おうとした時のことだった。
元々一人暮らし用のコンパクトサイズの冷蔵庫に、そんな大きな箱が入る筈もなく…
「どうすっかな…」
箱を床に置き、冷蔵庫を前に胡坐をかいた。
仕方ない、箱から出せばなんとかなるか…
本当は、蓋を開けた時のニノの驚く顔が見たかったんだけど、そこは背に腹は代えられない。
俺は蓋を開けると、中のケーキを一つ一つ、潰さないように気を付けながら皿の上に並べて行った。
その時、
「これ…、何だ…?」
一見すると、隙間を埋めるために入れられた保冷材の包みにも見えるが、実際手に取ってみると、明らかに保冷剤の質感とは違う硬さと重みに、俺は首を捻った。
そう言えば…
その時になって俺は漸く、別れ際に近藤が言っていた言葉を思い出した。
『冷蔵庫に入れる前に確認するんだぞ』
確かそう言っていた筈だ。
もしかしてこのこと…なのか?
俺は訝しみながらも、包みをそっと開いた。
それは二重に包まれていて、外側の包みを裏っ返すと、そこに走り書きのような文字で、
『俺の番号は登録してある。
困ったことがあったらかけてくるといい。
俺が力になる』
とだけ書かれていて…
「アイツ、まさか…」
俺は急いでもう一枚の包みを捲った。
そこには二つ折になった携帯電話があって、恐る恐る開いてみると、小さな画面にメールの受信を知らせる通知が表示されていて、慣れない操作に苦戦しながらメールボックスを開くと、
『さっき言うのを忘れたが、このことは他言無用だ。勿論、友達にもな』
近藤からのメッセージが表示された。
「マジかよ…」
近藤は俺のスマホが潤に管理されていて、潤と光る以外に通話が出来ないことも、GPSで俺の行動が監視されていることも知っている。
だからってこんな物を…?
やっぱ金持ちの考えることは分かんねぇや…
でも折角だから預かっておくか…
近藤の意図は分からないが、俺は言い付け通り、ニノにも見つからないように、ボストンバッグの底板の下に携帯電話を隠した。
最初に近藤から渡された名刺と一緒にしておけば、存在を忘れることはないだろう、と…