第18章 Emotion
「で、なんで風呂掃除してて智が濡れてんの?」
棚からタオルを取り出しながら、呆れたように言う。
良かった…、気付いてない…
「どうせならシャワーしちゃえば? 昨日入りそびれちゃったでしょ?」
「うん、まあ…」
「じゃあ着替え用意しとくね? あ、せっかくだから一緒に入る?」
「えっ…?」
ダメだ…、そんなことしたら、潤がここに来たことがニノに知られてしまう。
「ば、馬鹿か…、こんな狭い風呂に大の大人が二人で入れっかよ…。ほら、出てけって…」
Tシャツを脱ぎにかかったニノをドアの向こうに押しやり、俺は勢い良くドアを閉めた。
そしてニノの足音がドアから遠ざかったのを確認してから、水に濡れたせいで肌に張り付くTシャツを脱ぎ、鏡に自分の身体を写した。
骨の浮き出た肌に残る幾つかの赤い斑点…
「こんなの見せられっかよ…」
ニノのことだから、きっと俺が答えるまで質問攻めにしてくる筈だ。
そうなったら流石に黙り通すだけの根性は、今の俺にはない。
俺は水に濡れて冷えた身体を、今度は熱いお湯で暖めた。
夕方になって、先に迎えの来たニノを見送り、身支度を整えた。
今日の客は近藤だと潤が電話で言っていた。
近藤は初めて俺を買った日以来、週に一度は俺を指名してくる。
俺のことを酷く気に入ってくれてるらしい。
その証拠に、近藤と会うのはホテルの一室ではなく、近藤の自宅マンション…なんてことも少なくはなかった。
堅苦しいことが嫌いな近藤は、畏まった服装にも否定的で…
だから俺も結べないネクタイを締める必要もない。
至ってラフな服装で良いから、俺も気楽でいい。
ただ、くたびれたTシャツにハーフパンツと魚サンを履いて行った時には、流石に呆れられたけど…
それに近藤は年の割にはとてもロマンチストで、夢を語るその目は、まるで子供のように輝いていて…
一度話し出したら中々止まらないから、セックスをすることなく時間が過ぎてしまうことも度々だ。
俺は近藤が好きだった。
勿論、恋愛感情ではないけれど…