第18章 Emotion
ゆっくり眠ったせいか、それともずっと俺の手を握っていてくれたニノのお陰なのか、次に目が覚めた時には、つい数時間前まで感じていた怠さも、重さも…嘘みたいに消えていた。
俺は、俺の手を握ったままベッドに伏せて眠るニノを部屋に残し、小さなキッチンに立った。
ニノには申し訳ないが、またあの味のないお粥を食わされちゃ適わないからな…(笑)
って言っても、冷蔵庫に残った僅かな食材では大したモンが作れる筈もなく…
それでも何とか出来上がった料理を、二人がけの小さなテーブルに並べた。
「そろそろニノ起こすか…」
余程疲れが溜まっているのか、ニノが起きてくる気配はない。
「ったく、ニノの奴…、人の心配する前に、てめぇの心配しろってんだ…」
俺は一つ息を吐き出すと、寝室のドアノブに手をかけた。
その時、鳴る予定のないインターホンのブザー音が部屋に響いた。
誰だ…?
「えっ…?」
訝しみながら覗いたドアスコープの向こうに見えたのは、濃い色のサングラスをかけた潤の姿で…
「どうして…?」
慌ててドアを開けた俺は、開いたドアの隙間から伸びた腕に抱き留められた。
あっという間のことだった。
「な、何か用かよ…」
オーダーメイドのスーツを纏った腕に抱き竦められ、ぶっきらぼうに言う俺を、じゅは更に強く抱き締めると、俺の肩口に顔を埋め、Tシャツの襟元から覗く素肌に、チュッと音を立てて吸い付いた。
「用がなきゃ来ちゃダメなの?」
「べ、別にそういうわけじゃ…」
「だって会いたかったんだもん、智に…。っていうか、中入れてくれないの?」
強請るような甘えた声が、俺の耳を擽る。
「ダメ…だって…。今ニノ疲れて寝てるから…」
「大丈夫、邪魔しないから。ね?」
「いや、でも…」
それでも首を縦に振ることを渋る俺に、サングラス越しの鋭い視線が突き刺さる。
「智に拒む権利はないよ? まだ分からないの?」
「分かった…よ…。少しだけなら…」
そうだ…、俺は潤に逆らうことなんて許されちゃいないんだ…
それが例えどんな状況であろうとも。