第18章 Emotion
「ニノ、今日は仕事は?」
泣き腫らした顔を洗うためだろうか、俺から離れたニノの震える背中に声をかける。
尤も、俺達の言う“仕事”は、世間一般で言われる“仕事”と同じ類の物かどうかは分からないけど…
「今日は休み」
「そっか…。じゃあ今日は久しぶりに二人でゆっくり出来るか…」
実際ニノと暮らし始めたてからというもの、どちらかが仕事に出ていることが殆どで、二人だけの時間なんてなかった。
って言っても、俺達がこの部屋から外に出ることは許されていないし、それにも増して心配症のニノのことだ、俺はたまの休日をベッドの上で過ごすことになりそうだけどな。
まあ、正直その方が有難いか…
あのイカれたインポ野郎が何を混ぜたのかは知らないけど、恐らくはあの時飲まされたウィスキーの影響だと思う…、身体が自分の物ではないみたいに怠くて、重い。
「もう少し寝たら? 顔色良くないよ? あ、ついでだから身体も拭こうか?」
言いながら、温めたタオルを俺の頬に宛て、意地悪く笑うニノ。
その顔はいつもと変わらない笑顔で…
俺は内心ホッとしつつも、俺のシャツを脱がしにかかる手を慌てて掴んだ。
「い、いい、自分で出来るし…」
「今更恥ずかしがらなくてもいいんだよ? だって俺達、お互いの裸なんて見慣れてるでしょ?」
「そ、それはそうだけど…」
ストリッパーという職業柄、裸なんてモンは嫌って程見てきている。
勿論ニノの裸だって…
でもそれはステージの上、ダンサーとしてであって、この状況で…ってのは、まだ違った気恥しさがある。
「遠慮しなくていいんだよ? だってこういうことはお互い様でしょ?」
尚も食い下がろうとするニノに、俺は布団を頭から被って抵抗を試みた。
「マ、マジで大丈夫だから…」
「うん、分かった。でも身体辛かったら言ってね? 俺、向こうにいるからさ」
笑いを含んだ、それでいてどこか寂し気な声が、少しづつ遠ざかって行く。
それが俺には、どうしてだか置き去りにされるような気がして…
「なあ…、ちょっとでいいからさ…、傍にいてくんねぇか…?」
ニノの優しさに甘えても…いいよな…?