第18章 Emotion
その日の客は、やたらとしつこい上に、おかしな趣味を持った男で…
指定されたホテルの一室に入るなり、男は俺の見ている前で、ウィスキーの中に奇妙な液体を数滴たらし、それを俺に飲むよう差し出した。
当然、俺にそれを拒む権利なんてモンは…ない。
俺は薬入りのウィスキーを一気に飲み干した。
すると数分も経たない内に意識が朦朧としてきて…
だけど身体だけはやたらと火照り…
気付いた時には、両手両足の動きを制限された上に、目隠しまでされていて、玩具を突っ込まれた俺は、自分の意思とは関係なく腰を揺らし、嬌声を上げ続けた。
結果、散々イカされた挙句放置とはな…
一流企業の社長さんが聞いて呆れるぜ。
頭のイカレたインポ野郎が…
おかげでどうやって家まで辿り着いたのか…、それさえもさっぱり分かんねぇ…
唯一分かったのは、目が覚めた時、ニノが今にも泣きそうな顔で俺を見下ろしてた、ってことくらいか…
「もう…、本当に心配したんだからね? このまま目を覚まさなかったらって考えたら、俺…」
「バカ…、んなわけあるかよ…」
「だって…」
とうとう零れ落ちた涙が、俺の頬の上にポツポツと落ちる。
「心配かけて悪かったって…。だから泣くなよ…。な?」
くっきりとベルトで締め付けられた痕跡の残る腕でニノを胸に抱き寄せる。
ニノに心配をかけるつもりも、ましてやこんな風に泣かせるつもりなんてなかった。
ただ、原因が俺になかったか、と問われれば…、それは多分俺にもその一端はあるのかもしれない。
俺が潤に逆らったから…
店で新たに披露するショーのための振り付けを、俺が拒んだりしたから…
俺が…、潤からダンスを奪ったこの俺が、
「誰かの為でも、例え俺自身のためであっても、もう二度と踊るつもいはない」
なんて言ったから、潤はそれが気に入らなかったんだと思う。
そうじゃなかったら、こんな仕打ちをアイツがするとは到底思えない。
本当のアイツは、誰にでも優しくて、誰よりも純粋で、真っ直ぐにダンスを愛してる…、そんな奴だから…