第17章 Betrayal…
”M‣J”と書かれただけのメモ用紙に、坂本はファイルを片手に、更に幾つかの数字を書き並べた。
「電話番号…ですか? どこの?」
「風磨の実家の番号だ。それと、こっちは風磨の携帯電話の番号。ただ、この番号に関しては、何回かかけてはみたが、電源が切れたままのようだがな」
ファイルをパタンと閉じ、デスクの端に腰を掛けた坂本は、スタジオから漏れ聞こえる音に合わせて、トンとデスクを指で弾いた。
「あの…、一つ聞いてもいいですか?」
俺の問いかけに、リズムを取る指を止めることなく、坂本が”なんだ”とばかりに俺を見た。
「坂本さんはどうしてここまで…?」
”ただの教え子”それだけで済んだ筈だ。
ここまで尽くす義理も、尽くして貰う義理も、俺と坂本の間にはない。
なのにどうして…
「そうだな…、一言で言うなら、才能を潰したくないから…、なのかな…」
「才能…、ですか…?」
「智のダンサーとしての才能は、君も側にいて目の当たりにしているだろうが、アイツの本当の才能はあんなもんじゃない。まだまだ無限の可能性を秘めている筈だ。風磨にしてもそうだ。本格的なダンスを始めてからまだ日も浅いが、風磨も未知の可能性を持っている。俺はそんな二人の、ダンサーとしての才能を埋もれさせたくないだけだ」
実際、智のダンスを始めて見た時、心まで揺さぶられるような…、それでいて見た者を虜にするようなダンスに、俺はそれまで感じたこともない衝撃を受け、魅了された。
おそらく、これまで何十人、いや何百人というダンサー達を見てきたであろう坂本の目は、それが例えプロダンサーとしての”勘”てヤツだったとしても、素人同然の俺なんかより遥かに確かだ。
才能を潰したくない、か…
確かに坂本の言う通りだな。
俺だって、智をただのストリッパーとして終わらせるつもりはないと…
叶うのであれば、いずれ俺の手で世に送り出したいと…
ずっとそう思っていた。
「同感ですね」
俺達は顔を見合わせると、互いに差し出した右手を固く握りあった。