第17章 Betrayal…
坂本は軽く首を捻りながら写真を手に取ると、“これがどうした”とばかりに、困惑気味な顔を俺に向けた。
それも当然だ。
俺だって、一度見ただけでは気付けなかったんだから…
ま、かなり冷静さを欠いていた…ってのもあるかもしんねぇけど。
「ここ、ここに写っている、この青年に見覚えはありませんか?」
角度を変えては、目を皿の様にすしても気付けずにいる坂本に、俺の方から投げかけてみる。
すると坂本は、一瞬目を見開いた後、信じられないと言った様子で、口に手を当てた。
「俺の記憶が間違ってなければ、坂本さんのスタジオで何度か見かけたことがあると思うんですが…、違いますか?」
智が坂本のレッスン受けている時、確かスタジオの片隅で、熱心にレッスン風景を眺めていた青年…。
智が一緒じゃなかったら、間違いなく声をかけているだろうレベルの美形だったから、良く覚えている。
尤も、下心なんてなくて、ただのスカウトだけど。
「風磨だ。ここ何週間かスタジオに顔を出さないから、俺も心配はしてたんだ。でも、これをいつ…? いや、そんなことよりどこでこの写真を?」
やっぱりか…
「実は、杮落としから一週間くらい…だったか…。智が俺の前から姿を消したんです」
「智…が…? まさか、アイツがそんなこと…」
言いかけた坂本が、ハッとしたように手に持ったままの写真に視線を落とす。
「いや、他人の空似じゃ…」
現実を目の当たりにして、それでもまだ信じられないのか、坂本は首を何度も振りながら、俺と写真とを交互に見た。
「この写真が撮られたのは、恐らくここ二週間くらいの間だと思います。で、場所は先月末にオープンしたばかりの店の前…」
「な、何でそんな所に智が? それに風磨まで…」
「さあ、それは俺にも分かりません。だから、もし坂本さんが、この“風磨”とやらに何かを聞いてるんじゃないかと思いましてね…」
少しでもいい…
何でも良いから、情報が欲しかった。