第17章 Betrayal…
「もしもし…」
数コールの後、電話の向こうから聞こえた声は、一瞬番号をかけ間違えたかと思う程に覇気がなく、どこか沈んでいるようにも感じさせるものだった。
何かあったんだろうか…
そう思ったのは、その一瞬だけで、
「ああ、櫻井さんですか。どうもお久し振りです」
次に聞こえて来たのは、普段通り…とまではいかなくとも、不安を感じさせる程ではなかった。
「こちらこそその節はどうも」
簡単に挨拶を交わすと、俺は早速会って話が出来るよう約束を取り付け、支配人室を飛び出した。
雅紀に後のことを頼み、車に乗り込んだ俺は、どこにも立ち寄ることなく約束の場所に向かって車を走らせた。
相手側から指定された喫茶店に着いた俺は、閑散とした店内の、一番奥の席に陣取った。
入り口付近でも良かったが、そこだと客の出入りやらなんやらで、落ち着いて話が出来ないと判断したからだ。
智がいなくなってからこっち、自分でも自覚する程量の増えたタバコとコーヒーを暇つぶしに、相手の到着を待つ。
すると、到着から五分も経たない内に店のチャイムが鳴り、ざっくりと襟元の開いたTシャツに、ダンガリーシャツを羽織っただけの長身の男が、こちらに向かって軽く頭を下げながら歩み寄ってきた。
「どうもすいません、お忙しいのに急にお呼び建てしてしまって…」
「いや、この時間は比較的レッスンに来る生徒さんも少ないし、若い講師陣の方が主婦層の生徒さんには受けが良いんですよ。なので全然構いませんよ」
そう言って男…坂本は白い歯を覗かせた。
そう、俺が電話で呼び出したのは、他でもない、智がダンスレッスンを受けていた坂本だった。
「ところで話って言うのは?」
オーダーしたコーヒーが到着するのを待って、坂本の方から話を切り出した。
「実は見て欲しい物があるんです」
俺は胸ポケットから、例の写真を取り出すと、少々手狭に感じるテーブルの上に置いた。