第17章 Betrayal…
「痛っ…。てめぇ、いきなり何すんだよ」
椅子ごと弾き飛ばされた俺は、ヒリヒリと痛みを訴える頬を押さえ、ハアハアと肩で息をする雅紀を睨みあげた。
「二度と言うな! 二人が俺達のこと騙してたとか…、絶対ないから…。だから…だから…」
雅紀の目から涙が次々溢れ、床に這いつくばったままの俺の足元にポタポタと落ちる。
「雅紀…、お前…」
「そ、そうだよ…、惚れてるよ…、翔ちゃんが思ってるより、ずっとずっと俺はニノに惚れてる…」
雅紀がニノに惚れてることは知っていた。
中々先に進めずにいる二人のために、中坊のガキみたくダブルデートなんてモンをセッティングしたことだってある。
結局あんなことがあって、それもパーになっちまったけど…
「俺は…さ…、ずっと憧れてたんだ…、翔ちゃんと智に…」
「俺…と、智に…?」
「ずっと二人みたいな関係になりたいって思ってた。会話なんてなくても分かり合えててさ、お互い尊重し合っててさ…、俺もいつか、って…。なのにそんな言い方酷いよ…」
雅紀が俺達をそんな風に思ってたなんて…、正直意外だったし、驚きもした。
でも実際の俺達は、決して雅紀が思うような関係じゃなかった。
「お前それ甲斐かぶり過ぎだろ…」
会話がなかったのは、会話をすれば聞いてはいけないことまで聞いてしまいそうだったから…
智の意思を尊重していたのは、智を手放したくなかったから…
ただそれだけなのに…
「俺達はお前が思ってるような、そんなんじゃねぇから…」
自嘲するように言った俺の前に、雅紀がゆっくりとした動作でしゃがみ、頬を押さえ俺の手をそっと握った。
「ねぇ、俺ら何年の付き合いだと思ってんの? もう十年以上だよ? 誤魔化したって分かるよ。俺知ってんだからね? 翔ちゃん、親父さんに恋人紹介したのって、智だけだよね? それだけ本気だった、ってことでしょ? 違う?」
…ったく、俺の腹ん中まで見透かしたようなこと言ってんじゃねぇよ…、雅紀のくせに…