第17章 Betrayal…
余程悪いことが書かれているんだろうか…
テーブルの上に置かれたままの報告書に伸ばす手が、俺の意志に反して震える。
「どうしました? ご覧にならないのなら、私の口から申し上げましょうか?」
見兼ねたのか、貴族探偵が飲み終えたティーカップをテーブルに置き、長い足を組み替えた。
「いや、自分の目で確かめます」
そもそも、智の所在と、あの店との関係を調べるよう依頼したのは、他でもない俺だ。
俺は報告書を手に取ると、恐る恐るそのページを捲った。
事細かに、尚且つ詳細に綴られた文章に、一言一句逃さないように目を通して行く。
そこには、俺が想像していた通り…、いやそれ以上の事が記されていて…
全てを読み終えた時には、疲労感にも似た感覚に、全身から力が抜けて行くのを感じた。
「おやおや、顔色が優れないようですが、大丈夫ですか?」
「ほんとだ、翔ちゃん大丈夫? 酷い顔してるよ?」
「あ。ああ…、大丈夫だ」
雅紀はともかくとして、貴族様にまで心配されるって…、よっぽど酷い顔してんだろうな、俺…
「悪いが、コーヒー煎れてくんねぇか…」
「あ、う、うん…」
雅紀が席を立ち、俺はタバコに火をつけた。
深く煙を吸い込み、一気に吐き出すと、それまで微かに残っていた紅茶の香りは一瞬にして掻き消され、普段通りのヤニ臭い支配人室の空気へと変わった。
「はい、どうぞ」
「おお、サンキューな…」
雅紀からマグを受け取り、まだ熱いコーヒーを一口啜る。
すると、それまで頭の中にかかっていたモヤが晴れたような気がするから不思議だ。
「ところで貴族探偵さんとやら…。この報告書を読む限り、不明瞭な点が幾つかあるんだが…」
智のことは勿論、オープンに関わる出資者と、ホストクラブからショーパブへと改装するための工事業者、更には従業員名ほまで添付されているのに、肝心なオーナーに関しては、一切の記載がない。
どう考えたって不自然でしかない。