第17章 Betrayal…
普段はタバコの匂いが充満している支配人室に、紅茶の芳しい香りが漂う。
雅紀の友人で、自らを”貴族探偵”だと名乗った男は、どこから持ち込んだのか、優雅な仕草で品の良いティーカップを持ち上げると、鼻先に近付け、、香りを楽しんだ後、カップに口を付けた。
そして紅茶を一口啜ると、
「どうしました? 中をご覧にならないのですか?」
未だに封を切ることの出来ない俺の様子を、窺うように覗き込んだ。
「いや、そんなことは…」
見たくないわけじゃない。
ただ迷っていた。
この封筒の中には、おそらくは智の居所を記した報告書が入っている筈だ。
智が今どこにいて、何をしているのか…
無事なのか、生きているのか…
知りたいのは山々だ。
でもこの封を切ってしまったら、きっと俺が望んでいない情報まで知ることになる。
そう思ったら、どうしてだか手が震えて、中々封を切る事が出来なかった。
「雅紀、悪いけど開けてくんねぇか?」
俺は封筒を雅紀に託した。
「えっ、お、俺っ?」
雅紀が驚くのも無理はない。
でも残念なことに、自分で封を切る勇気が、今の俺にはない。
「悪い、頼むわ…」
情けねぇけど…
「分かった。翔ちゃんがそれで良いなら…」
じゃ、開けるよ…?
最終確認…だろうか、雅紀が俺が頷くのを見てから、封筒にハサミを入れた。
カサリ…、と音を立てて口の開いた封筒から、丁寧に綴じられた冊子を取り出した雅紀が、ページを捲りながら目を通して行く。
その顔が、徐々に険しく変わって行くのを、俺は胸に不安を感じながら見つめていた。
そして、最後のページが閉じられ、表紙に“報告書”と書かれた冊子が置かれた時、
「何て書いてあった…?」
ゴクリ…と息を飲んでから、俺は漸くその口を開いた。
でも雅紀は首を横に振ると、
「ごめん、俺の口からは言えないや…」
今にも消え入りそうな声で言うと、そっと瞼を伏せた。