第16章 To a new stage...
大したことじゃない…
今までだって、何十人と観客のいる前で、全てを曝け出して来たんだ…
こんなこと、大したことじゃない…
見ず知らずの男に組み敷かれながら、何度も自分に言い聞かせた。
でもいざ両足が開かれ、異物に身体を貫かれると、覚悟なんてもんは脆くも崩れ…
悔しさと、情けなさに奥歯をきつく噛んだ。
それでも身体は正直な物で、どれだけ俺が拒んだところで、手練た相手の前では、その抵抗すらも虚しいだけ。
気付けば、与えられる快楽に身を任せ、声が枯れるまで歓喜の声を上げ続けた。
「最高だったよ。君みたいな子は初めてだ。また指名させて貰うよ」
シャワーを終え、帰り支度まで済ませた男が俯せた背中にかける声すら、とても遠くに聞こえて…
勝手にしろ…
ドアの閉まる音を意識の片隅で聞きながら、俺は涙なのか汗なのか…濡れた瞼をそっと閉じた。
電話…しなきゃな…
ベッドサイドに置かれた椅子に、無造作にかけたジャケットに手を伸ばそうとするけけど、身体が思うように動かない。
おかしいな…
そんなに酷く扱われたわけでもないのに、腕一本動かすのすら、今は億劫で仕方がない。
それでもどうにか腕を伸ばしてスマホを手に取ると、唯一登録されている番号をタップした。
「あ…、俺…。シャワーしてから降りるから…」
まるで自分じゃないみたいな声に、自分がどれだけ激しく喘いでいたのかを、まざまざと思い知らされる。
最低だな、俺…
深い溜息と共に零れた涙が、握りしめたスマホの上にポツリと落ちる。
翔…、会いてぇよ…
殴られたって構わない…、どんなに酷い言葉で詰られても…、それでもお前に会いたい…
それが叶わないのであれば、せめて声だけでも聞きたい…
こんなことならスマホくらい持って来れば良かった…
そしたら声だけでも聞けたのに…
熱いシャワーを全身に浴びながら、いくら願ったところで到底叶うことのないことばかりに思いを巡らせた。