第16章 To a new stage...
「分かった。智がそこまで言うなら、仕方ない…よね…」
暫く考え込んだ後、ニノがそのふっくらとした両手で俺の顔をバシッと叩いた。
「いって…。お前、ちょっとくらい加減しろよな…」
両頬をサンドイッチ状に挟まれたまま、それでも尚膨れる俺を、ニノの涙に濡れた…、でもどこか真剣な眼差しが真直ぐに見据えた。
「だってムカつくんだもん…。あの潤って奴にも、それから頑固なくせに優し過ぎる智にも…。ムカついてしようがないんだもん…」
「ごめん…ニノ…」
「謝んないでよ…。その代わり約束して? もし本当に辛くなったら、俺を頼るって…。一人で泣いたりしないって…、約束して? じゃなかったら、俺智をこの部屋から一歩も出さないから…」
いつか、俺がニノに言った言葉が、そのまま自分に買えって来るなんて…、思ってもなかった。
俺は頬を挟んだニノの手に自分の手を重ねると、そっと瞼を閉じ、小さく頷いた。
分かった、約束する…、って…
さして迎えたオープン当日…
俺は店に一切顔を出すことなく、ニノとは別の車に乗せられ、潤が約束を取り付けた相手の待つホテルへと向かった。
見てやりたかったな、風磨のステージ…
アイツ、強気なフリしてっけど、あれで案外気は小さい奴だから、きっと今頃すげぇ緊張してんだろうな…
あ、振り付け間違えたりしないだろうか…、心配だな…
車を降り、エントランスへ向かう途中も、階を重ねて行くエレベーターに乗り込んでからも、考えるのはステージのことばかりだ。
寧ろ、それ以外のことは考えないようにしていたのかもしれない。
考えてしまったら、きっと自分の置かれた現状から逃げ出したくなるから…
「中でお待ちです。用が済んだら連絡下さい。俺は車で待ってますから」
運転手の男が俺に向かって頭を下げる。
俺なんて、頭を下げる価値なんてないのに…
「分かった。ありがとな…」
男がその場から立ち去るのを見届けてから、俺は部屋のブザーを押した。
カチャリ…、とドアが開いた瞬間、俺の両足がカタカタと震えだした。