第16章 To a new stage...
体格差なんて殆どないのに、ニノの胸が凄く広くて…大きく感じる。
「ニノは…さ、その…初めてウリやった時、怖くなかったのかよ…」
「それは…」
見上げた俺を、泣き顔を困ったように曇らせてニノが見下ろす。
でもすぐに自嘲するよいに笑うと、胸に顔を埋めたままの俺の肩をトンと叩いた。
「俺の場合はさ、仕方なかった…って言うかさ…。それしか生きる術が無かったから…。だから、怖いとか言ってらんなかったかな…」
身寄りも無く、学校すらまともに出ていないニノが生きて行くには、相当な苦労があったとは思う。
それなりの覚悟だって、当然あった筈だ。
でもそれを“仕方なかった”なんて一言で片付けるなんて…、悲し過ぎんだろ…
「そりゃさ、最初は超緊張したし、中にはおかしな趣味の客もいたりしてさ…、正直怖い思いもしたよ? でもさ、慣れって恐ろしいもんでさ…、自分の身体が金になると思ったら、そんな恐怖も消えちゃった。…それに、セックスすんのも嫌いじゃなかったしね?」
そう言ったニノの顔が、不思議と大人びて見える。
普段は俺なんかよりも、ずっと可愛らしい顔してんのに…
「でもね、智? 俺、智には俺みたいになって欲しくないんだ。俺が金のために自分の身体を犠牲にしたように、智にはアイツのために自分を犠牲にして欲しくないんだ。だって智…、翔さんのこと、本気で愛してんでしょ?」
確かに翔のことは愛してる。
こうして離れてみて初めて、その想いの深さに俺自身が驚いたくらいだから、紛れもない事実。
でもだからこそ俺は、
「愛してるからこそ、あの劇場が好きだからこそ、翔には迷惑かけたくないんだ…」
智が断れば、あの劇場がどうなるか…、分かってるよね?
そう俺の耳元で囁いた言葉で…、アレはきっと脅しなんかじゃない。
もし俺が断れば、どんな手を使ってでも劇場を潰しにかかるだろう…
だったら俺の出すべき答えは、ただ一つ。
それが例え翔を苦しませることになろうと…
更に悲しませることになろうと…
翔と、あの劇場だけは、どうしても守りたいんだ。
守らなきゃいけないんだ。