第16章 To a new stage...
翌日から、俺はマンションには帰らず、スタジオに籠った。
勿論、潤も一緒にだ。
振り付け自体は既に出来上がっているから、後は簡略化するだけで、特別に考える必要はない。
ただ、例え簡略化したところで、まともに踊れなきゃ意味がない。
俺は数人いるダンサーの中から、一人…どうにか使えそうな奴を選び、スタジオに呼んだ。
菊池風磨…、潤が集めたダンサーの中でも、その端正な顔立ちと、スタイルの良さは群を抜いている。
そして何より、まだまだ未熟ではあるけど、リズム感の良さだけは抜群だ。
俺は風磨の中に、何かキラリと光る物を見ていた。
当然、潤に異論はない。
それどころか、未だにカウントの取れない俺に代わって、手を叩いてリズムを取ったり、時には擬音だらけの俺の言葉を代弁してくれることだってあった。
そのおかげかなのか、それとも風磨自身の元々の呑み込みの早さなのか、オープンを前日に控えた頃には、メキメキ…とまではいかなくても、なんとか客前に立っても恥をかかないレベルにまで上達した。
「この短期間で、素人同然の風磨をあそこまで仕上げるとは…。流石だよ、智」
「俺は別に…。元々アイツにそれだけの素質があったってことだろ…。それに…」
「それに、何?」
お前の支えがあったから…、俺の足りない部分を、お前が補ってくれたから…
「や、何でもない…」
俺は喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
口にしてしまえば、二人で踊ることがただただ楽しくて仕方なかったあの頃に、もしかしたら戻れるんじゃないか、って勘違いしてしまいそうだったから…
どんなに願ったって、もうあの頃の俺達には戻れやしないのに…
「じゃ、俺帰るわ…」
翔の元を離れる時に俺が唯一持ち出した、坂本から貰ったダンスシューズをバッグに詰め、汗に濡れたシャツを替えることなくスタジオを後にしようとした俺を、
「待って? まだ話終わってないから」
潤の冷えた声が呼び止めた。