第16章 To a new stage...
何もいらない…、そう言った俺の言葉を無視するように、ニノは俺から離れると、備え付けの小さなキッチンに立ち、一人暮らしなら十分なサイズの冷蔵庫からペットボトルを二本取り出し、一本を俺に差し出した。
「実を言えばさ、俺も良く分かってないんだ。たださ、俺が言うことを聞かなかったら、俺に関わった人達がどうなるか分かんないからって…。でも俺が言うことを聞けば、嫌がらせとかもやめるって言われてさ…」
「それって…、脅しじゃんかよ…」
人の弱味に突け込んだ脅迫…
一体どこまで汚ぇ手を使えば気が済むんだ…
俺は腸が煮えくり返りそうになるのを、ペットボトルの冷えた水で落ち着かせ、フッと息を吐き出した。
「逃げらんなかったのかよ…。つか、逃げれば良かったじゃん…」
俺の前から姿を消した時みたいに、全て捨てて逃げれば良かったじゃないか…
「そうしようと思ったよ? でもさ、アイツらの口から智の名前が出た時に、やめよう…って…」
「お…れ…?」
ニノが逃げなかったのは、俺のせいだって言うのか?
「アイツらさ、俺が言うこと聞かなかったら、智に返して貰うって…。でもそんなこと出来るわけないじゃん? 智は大事な友達だし…」
確かにニノの言う通りかもしれない。
俺だって、潤の口からニノの名前が出なければ、ここに来ることもなかった。
でもそれとこれとは話が違う。
「…っだよ、それ…」
沸々と湧き上がる怒りに、固く握った拳が床を叩く。
目の前でニノがビクリと身体を震わせた。
「で、でもね、それだけじゃないんだ。俺さ、もう逃げるのやめようと思ってさ…。俺の人生逃げてばっかだったからさ…」
「ニノ…」
「そしたらさ、幸か不幸か智にまた会えた。それだけで、ここに来た甲斐があったかなってさ…。ただ…」
「ただ…?」
「まさかアイツらのバックに、あの人がいるとは思わなかったけどね…?」
そう言って、ニノは空になったペットボトルをクシャリと握り潰した。