第16章 To a new stage...
「ほら早く」
車から降りようとしない俺の手を、潤が急かすように引く。
普段は同い年の俺から見ても大人びて見えるのに、こういう時の潤はまるで駄々をこねる子供のようだ。
「分かった…。だから手ぇ放せ。お前見かけによらず力あんだから…」
それに、そんなことしなくたって、俺はもう二度とお前の前から逃げたりはしないのに…
俺って信用ねぇのな…
「ごめん、痛かったよね?」
そう言って俺の手首を摩るその顔は、あの頃と全く変わらないのに、どうしてだろう…今はその横顔すら怖く感じる。
「大したことねぇし…。それよりさっさと店案内しろよな」
無理矢理作った笑顔は、きっと引き攣ってんだろうな…
「あ、うん。じゃあ行こうか」
俺が車を降りるのを見届けてから、潤がゆっくりとした足取りで店の中へ入っていく。
俺はその後ろを、小走りで着いて行った。
店の中へ入った俺は、思わず溜息が零れそうな煌びやかな内装に驚きを隠せず…
「ほぇ~、すげぇな…」
キョロキョロと落ち着きなく店内を見回した。
「そ? 元々はホストクラブだった店をそのまま買い取ったから、内装には殆ど手を加えてないんだ」
ホストクラブか…、なるほどね、道理で外装もそうだけど、内装も派手なわけだ。
それにしたって金持ちのやることは分かんねぇや…
「智、こっち」
雰囲気に圧倒されて動けずにいる俺を、ステージ…だろうか、数段高い位置から潤が呼んだ。
「お、おぅ…」
テーブルの隙間を掻い潜り、ステージに飛び乗ると、そこから見える景色に視線を巡らせた。
「どう? なかなかのもんでしょ?」
「まぁ…な…、悪くはないかもな…」
嬉々とする潤を落胆させないようそう答えたが、実際にはそうじゃない。
一応はパブの形式を取っている以上、劇場のステージのように、どの角度からでもダンサーが見える訳じゃないし、当然のように客席とステージの距離だって近くはない。
劇場の、あの小さなステージしか知らない俺は、改めてその違いに驚かされた。