第15章 Signs...
雅紀はすっかり冷めてしまったコーヒーを飲み干すと、心做しかスッキリとした笑顔を浮かべ、膝を両手でバシッと叩いた。
「なんかさ、色々ショックなこともあったけどさ、ニノが生きてるってことが分かった、ってだけでも良かったと思わなきゃね?」
「そう…だな」
結局擦れ違いにはなってしまったが、それでも“ニノがそこにいた”という確かな証拠が得られたんだ。
それだけでも今の雅紀にとって安心材料にはなった筈だ。
「あ、でね、そこの店…ニノが身を寄せてた店のママさんに聞いてみたんだけどさ…」
「何をだ?」
「ニノは知ってたみたいなんだ」
「だから何をだ、って…」
ったく…
長年の付き合いで慣れてるとは言え、相変わらずの主語の抜けた会話には、頭を抱えるしかない。
「だから智のことをだよ」
「智?」
俺は一旦は持ち上げたマグカップをテーブルの上に叩き付けるように置くと、思わず雅紀の胸倉に掴みかかった。
ガタンと揺れた衝撃で、倒れたマグから零れたコーヒーがテーブルの上を濡らす。
「ちょ、ちょっと落ち着いてよ…」
「馬鹿野郎、コレが落ち着いてられっかよ」
ニノのことは勿論気にはなっていた。
でも俺にとっては、智の行方以上に気がかりなことはない。
出来ることなら、ニノの情報よりも先に、智に関する情報が欲しかった。
…って言っても無駄か…
雅紀が惚れてんのは、智じゃなくてニノなんだから…
仕方ねぇ、そこは目をつぶってやるか…
「で? 智がどうしたって?」
俺はどうにか気持ちを落ち着かせると、雅紀の胸倉から手を離すと、ボスッとばかりにソファーに腰を下ろした。
「もう…、智のことになると急に目の色変わるんだから…」
「悪ぃ…」
確かに雅紀の言う通りだ。
智が姿を消してからこっち、つい冷静さを欠いてしまうことが増えている。
こと智に関しては特に、だ。
まだまだだな、俺も…