第15章 Signs...
「っていうかさ、ニノがウリやってたなんてさ、俺ショックでさ…。ってか、翔ちゃんは知ってたの?」
雅紀の顔が、泣き笑いのような複雑な物へと変わる。
「いや、それは俺も初耳だったわ…」
「もうさ、なんか全部信用出来ない…っていうかさ…」
確かにな…、惚れた相手が、例え過去のことではあっても、ウリやってた…なんて知ったら、雅紀じゃなくても落ち込むだろうな…。
その気持ちは分からなくもない。
こんな仕事を生業としてる“俺”でも、もし智が…って考えたら…
「でも、だぜ? もしその話が事実だとして、お前今更ニノのこと嫌いになれんのか?」
一度は惚れた相手だ。
そうそう簡単に嫌いになんて、なれるわけねぇ。
「少なくとも、俺は智が過去にどんな秘密を抱えていようと、嫌いにはなれねぇし、忘れることは出来ねぇ。…そりゃ、ショックは受けるだろうがな?」
それが深く愛した相手ならば、尚更だ。
もし、過去が原因で嫌いになれるなら、それは本気で惚れてない証拠だ。
「お、俺は…。お、俺だって今更ニノのこと嫌いになんかなれないよ…」
だよな?
雅紀ならそう言うと思ったぜ(笑)
「俺さ、思ったんだ。どうして気付いてやれなかったのかな、って…。絶対苦しんでた筈なんだ。でも俺気付いてやれなかった。それがさ、なんかもう…、悔しくてさ…」
ついに堪えられなくなったのか、指で目頭を押さえる雅紀の肩を、俺はポンと叩くと、震え出した肩をそっと抱き寄せた。
「気付いてやれなかったのは俺も同じだから…」
俺だって智が何を抱えてるのか…、全く気付いてやれなかったんだから…
どこかで分かっていた筈なのにな…、智がいつか俺の前からいなくなるって…
それを分かっていながら、俺は智の苦悩から眼を逸らし続けた。
雅紀なんかより、俺の方がよっぽど罪深い。
「なんか俺ら、マジでどうしようもねぇな…」
「ホント…、最低だね、俺ら…」
惚れた相手一人繋ぎ止めておけねぇんだからさ…