第15章 Signs...
当初の予定通り、翌日には戻った雅紀だったが、思いの外表情が暗いことに気付いた俺は、雅紀の手隙の時間を見計らって支配人室へと呼んだ。
一人がけのソファーにドカッと座り込むなり、肩をガックリと落とした雅紀の顔は、思い過ごしなんかじゃなく、やっぱりどこか沈んでいるように見えて…
良い結果が得られなかったことは、その落胆した様子を見ただけで察するのは容易だった。
俺は黙ってサーバーから入れたコーヒーを雅紀の前に差し出すと、ソファーの中央に足を組んで座った。
すると、俺がそうするのを待っていたのか、項垂れていた雅紀の顔が上がり、悔しそうに唇をキュッと噛んだ。
「会えなかった…のか?」
「一足違いだってみたい…」
「そっ…か…、残念だったな…」
こんな時でも気の利いた台詞一つ言えない自分が、心底情けなく感じる。
「翔ちゃんさ、ニノが変な奴らに脅されてた、って知ってた?」
「いや…、知らない…」
何か事情があることは、あの夏祭りの一件で気付いてはいたが、ハッキリとしたことは何一つ知らない。
もし仮に知ってる奴がいたとしたら…、それは智以外には多分いないだろう。
「俺も知らなかったんだけどさ、ニノが昔から世話になってた人の話聞く限りでは、ニノの奴けっこうな額の借金抱えてたらしくてさ…」
そこまで聞いて、俺は漸くニノが突然姿を消した理由を悟った。
ニノの奴、俺らに迷惑かけないように、っことか…
ったく、バカな奴だ…
「でさ、その相手ってのがさ、翔ちゃんおぼえてないかな…、以前散々ヤジ飛ばした挙句、出禁になった奴ら…。どうもアイツらが絡んでるらしいんだ」
「ああ、アイツらのことは良く覚えてる」
寧ろ忘れられる筈がねぇ。
「アイツらさ、ニノがウリ?やってた時の客みたいでさ…。それでニノの奴…」
だからか…、他のダンサーに比べて、ニノに対して嫌がらせともとれる行為を執拗なまでに繰り返していたのは…
なるほどな…、漸く合点がいったぜ。