第15章 Signs...
ダンサー用に設けられたシャワールームで軽く汗を流し、クリーニング済みのカッターシャツとスーツに着替えた俺は、誰もいない筈のステージに降りた。
そう、誰もいないと思っていた。
でも階段の中ほどで耳に飛び込んできた聞き覚えのあるメロディーと、リズムに合わせて床を蹴る音…
まさか…
俺は階段を一気に駆け下りると、舞台袖で幾重にも重なる幕を掻き分けた。
「智…っ…!」
半ばさけぶようにしてステージ上に飛び出した俺を、心底驚いたような目が見つめる。
「なんだ涼介…か…」
「なんだ…、って失礼しちゃうな…」
首に巻いたタオルで額の汗を拭い、キラリとした笑顔で拗ねた素振りをする。
「ああ、悪ぃ…。こんな時間だし、智かと思ってな…」
智は、スタッフやダンサーが揃う前の、誰もいないみ無人のステージで踊るのが好きだった。
というよりは、見せたくなかったんだよな、練習してる姿を…
例えスタッフだとしても、なんなら俺に対しても、だ。
中途半端な姿は誰にも見せることはなかった。
だからかな…、ステップを踏む音が聞こえた瞬間、それが智だと思い込んでしまった。
「ごめんなさいね、智さんじゃなくて…」
「いや、俺の方こそ邪魔して悪かったな」
「ふふ、全然大丈夫ですよ。あ、もし良かったら見て貰えますか?」
「ああ、少しくらいなら…」
「やった!」
途端に年の割には幼く見える顔を綻ばせる涼介。
なるほどな…、確かに客ウケがいい筈だぜ。
俺は無人の客席に腰を下ろすと、ステージを見上げた。
プレイヤーからR&Bが流れ、持ち前のバネを生かして涼介が小柄な身体を、所狭しとステージ上に跳ねさせる。
見た目も、男の割には可愛らしいし、ダンステクニックだって、まだまだ荒削りだが、上手く育てれば智以上のダンサーになるかもしれない。
ただ、俺にとってのNO.1ダンサーは、後にも先にも、智を除いて他にはいないけど…