第15章 Signs...
劇場までタクシーで戻った俺は、
「たまにはマンション帰ったら?」
と言う雅紀に首を振り、裏口のから無人の劇場に入り、迷うことなく支配人室へと向かった。
「疲れた…」
何度も智と愛し合ったソファーに身を横たえると、すぐに睡魔が襲ってくる。
でも不思議と眠れねぇんだよな…
やっぱマンション帰れば良かった。
でもなぁ…、どうしても帰る気になれねぇんだよな、そこに智がいたっていう痕跡が多く残り過ぎてるあの部屋には…
実際、智が俺の前から姿を消してから、もう何日も経つってのに、俺があの部屋に帰ったのは数える程だ。
それも着替えを取りに行く程度で、長時間滞在することは…ほぼない。
飯だってろくに食えてないし…
たかだか恋人に捨てられたくらいで、ここまでボロボロになるとはな…
大概未練たらしくて、情けなくなってくる。
それだけ智に惚れてた…ってことなんだろうけど…
俺はジャケットの胸ポケットに入れたままのスマホを取り出すと、雅紀に電話をかけた。
さっき別れたばかりってこともあって、少々気が引けなくもなかったが、頭の中のモヤモヤを少しでも早く消し去りたかった。
「もしも〜し、どうしたの?」
返って来たのは、相変わらずの能天気な声で…
内心、呆れもするが、いつもと変わりのない様子にホッとする。
「ああ、悪いんだけどさ、お前の知り合いに探偵の真似事してた奴…いたよな?」
「ああ、貴族様のこと?」
「おお、それだそれ」
最初雅紀からその人のことを聞かされた時、随分と巫山戯た名前に笑った覚えがある。
「貴族様がどうかした?」
「お前さ、その貴族様とやらとは、連絡取れんのか?」
「取れなくはないけど…どうして?」
妙なとこで察しが良くて、肝心な時には察しが悪いのは、流石相葉雅紀だぜ(笑)
「一つ頼まれてくんねぇかなと思ってさ…」
本当は、自分の手で…そう思わなくはないけどな?