第15章 Signs...
「こんなことなら車で来ればよかったね?」
タクシーを待つ間、街路樹を囲う木製のベンチに腰を下ろし、コンビニで買った缶ビールを傾けながら、雅紀が苦笑する。
「仕方ねぇよ…」
ビールの冷たさが、俺に冷静さを取り戻させていく。
「なあ、正直どう思った?」
「どう、って?」
多分俺が何を言いたいのか、雅紀は分かってる。
でも敢えてはぐらかそうとするのは、俺の性格を熟知しているからだろうな。
「うーん、そうだなぁ…」
雅紀が空になった缶をクシャッと握り潰し、数メートル先のゴミ箱に向かって投げる。
流石元バスケ部員だけあって、コントロールは抜群だ。
「なんかさ、あんなの別にショーでも何でもないって言うかさ…。うちと比較する程のモンじゃない、って言うか…」
「まあな…」
思うことは同じ、ってことか。
見てくれは良いが、いや…寧ろ見てくれ“だけは”良いと言った方が正しいのか…
外観にしても、内装も…、ステージの設備だって、相当な金を注ぎ込んだんだろうってことは、一見しただけで分かる。
ダンサーにしたってそうだ。
見た目さえ良ければ、ダンススキルなんてモンは二の次の素人同然のダンサーばかりで、正直まともに見る気にもならなかった。
メインダンサーにしたって、素人の俺から見たってメインを張るだけの腕は持ち合わせちゃいねぇ。
それに加えてあの接待だ。
あれじゃまるで、ゲイ相手の娼館と同じじゃねぇか…
あんな成金趣味のイカれた店に、あの智が関わっているとは思いたくないが…、それでも胸の奥に沸き起こる疑惑が拭い切れないのは、あの曲が何故あの場所で使われたか…ってことだ。
俺だって持っていない音源を、誰か他の人間が…なんてことは考えられない。
だとすると、智があの店に関係している可能性は…極めて高い。
つか、そもそもどんな経緯で俺の所に招待状が来たのか、それすらも謎だ。
やっぱりオーナーの顔ぐらいはおがんでおくべきだったな…
一つ深い溜息を落とした丁度その時、俺達の前で一台のタクシーが止まった。