第14章 Separation…
潤の運転する車に乗せられ、連れてこられたのは、あの茹だるような夏の日、俺達が戯れに抱き合ったあの家だった。
暗いせいか、ハッキリとは分からないけれど、外壁こそ色褪せているものの、要塞のような佇まいあの頃と何一つ変わっていない。
「入って?」
電子キーを解除して、潤がドアを開け、玄関先で立ち止まったままの俺の手を引く。
「安心して? 誰もいないから」
そっか…、誰も…
その一言に、意味もなく安心してしまう。
潤に手を引かれるままリビングに通された俺は、あの日の記憶が生々しく残る革張りのソファーに腰を下ろした。
「コーヒーで良かった?」
「え、あぁ…、うん…」
キッチンカウンターの向こうからかかる声に、一瞬背中がビクリと震える。
俺自身が望んだこと…、何も怯えることなんてないのに…
「どうぞ、熱いから気を付けて?」
ガラステーブルの上に、湯気を立てた青と紫のマグカップがコトリと置かれる。
明らかにインスタントとは違う、コーヒーの香ばしい匂いが広いリビングに広がった。
俺は目の前に置かれた青いマグカップを手に取ると、何の躊躇もなく口を付けた。
「アチッ…、苦っ…」
予想以上の熱さと苦さに、舌先がヒリヒリと痛む。
「あーあ、だから言ったのに…」
潤が呆れたように言って、俺の手からマグカップを取り上げた。
「ゴメン…」
「いいから見せて?」
マグカップを持っていたからだろうか…、少しだけ温度の感じられる指先が俺の顎先にかかる。
「いいよ、大丈夫だって…」
咄嗟に視線を逸らした俺を、長い睫毛に縁取られた潤の視線が引き戻す。
「だーめ、ほらちゃんと見せて?」
俺はその視線に抗うことも出来ず、ヒリッと痛む舌先を薄く開いた唇の隙間から突き出した。
瞬間、おずおずと突き出した舌先は潤の薄い唇に捉えられ…
息をする間さえ与えられないままに、俺はソファーの上に押し倒された。