第14章 Separation…

約束の場所に着いた頃には、もう日はどっぷり暮れていて、俺はポツンとあるだけの街灯を頼りに、今にも草に埋もれそうなベンチに腰を下ろした。

こんな時に限って時間を確かめるためのアイテムが何もないことが、今更ながらに悔やまれる。

時計くらい借りて来れば良かった…
返す宛なんてないけど…

水面を滑る風の冷たさに肩を竦めた、丁度その時、カサリと草を噛む音が聞こえて、俺はゆっくりと音の下方を振り返った。

スラリと伸びた手足と、頭に被ったキャップ…

逆光でも分かる…、間違いなく潤だ。

｢じゅ…ん…？｣

掠れた声で呼びかけてみる。

｢フッ…、まさか、本当に来てくれるなんてね…、驚いたよ｣

返って来た声は、聞き間違える筈のない声で…

俺はベンチから腰を上げると、ゆっくりとこちらに向かって近付いて来る人影に向かって一歩を踏み出した。

｢約束…だから…｣

｢へぇ、意外と律儀なとこあるんだ？ 俺のこと捨てたクセに…｣

｢それは違う…｣

捨てたんじゃない…、潤は死んだものだとばかり思い込んでいたから…、だから…

｢違う、って？ …って、そんなことどうでもいいや。こうして俺の所に帰って来たんだから｣

徐々に距離が縮まり、不意に伸びて来た手が俺の頬に触れる。

あの頃と変わらない、冷たい指で…

｢そうでしょ、智？｣

頬に触れた指が、唇の輪郭をなぞるように動いて、

｢…ああ｣

そう答えるのが精一杯だった。

｢嬉しいよ、戻って来てくれて。さ、行こうか？｣

どこに…？

聞くよりも前に、重ねられた唇がチクリと痛む。

｢痛っ…｣

思わず口元を抑えた俺の手を、潤の体温を感じない手が掴む。

｢痛い？ でもね、俺の痛みはそんなもんじゃなかったんだよ？ 身体も…、それから心もね…｣

｢ごめ…っ…｣

｢謝んないでよ…。今更謝られたって、この足が元通りになることは無いし、心の傷だって…｣

生きていると知らなかったとは言え、それ程までに深く傷付けていたなんて…

俺はどうしたらいい…