第14章 Separation…
劇場を後にした俺は、どこに立ち寄ることも無く、バスに飛び乗った。
ただ潤に近付きたくて…、ひたすら死に場所を求めていた、あの時と同じように…
ただ一つあの頃と違うのは、死ぬためじゃない…ってことかな…。
俺は生きるために…、その為だけにあの場所に帰るんだ。
…って、俺も随分強くなったもんだな…。
それも全部翔のおかげだな…。
遠ざかって行く、翔との記憶が詰まった街を車窓に見ながら、思わず笑いが込み上げた。
いつしか笑いが涙に変わるまで、ずっと…
どれくらいの時間バスに揺られていたんだろう…
気付けば、景色はどこ懐かしい…、見覚えのある風景へと変わっていた。
帰って来たんだ…
もう二度と帰ることはないと思っていた場所に、俺は帰って来たんだ…
そう言えば…
父ちゃんや母ちゃんは元気にしてるだろうか…
病院を飛び出したきり、連絡も一切取らず、今まであまり思い出すこともなかった両親のことが、不意に脳裏を過ぎる。
心配…してるだろうな…
それとも怒ってるかな…
当然か…ある日突然息子が姿消したらさ、心配すんの当たり前だよな…
母ちゃん泣くかな…
父ちゃんは…、殴られたりすんのかな…
会いてぇな…
ふとそんなことを思うけど、今はまだその時じゃない…
感傷に浸ってる時間はない、先ずは潤との約束を果たさねぇと…
俺は手に下げたボストンバッグを肩に担ぎ直すと、陽が傾き始めた街をとぼとぼと歩き、潤が指定した場所へと向かった。
途中、俺達を引き裂いたあの事故の現場の横を通った時には、流石に息が詰まるのを感じた。
ハッキリと事故の事を記憶しているわけじゃない。
でも行き交うトラックを見れば、薄ぼんやりとだけど、嫌でもその時の記憶が呼び起こされる。
事故にさえ遭わなければ…
そしたら俺達は、また違った道を歩いていただろうに…
俺は次々浮かぶ過去の記憶を振り払うように頭をブンと振ると、一度はピタリと止まってしまった足を再び動かし始めた。