第14章 Separation…
程良く酔いも回り、タクシーでマンションまで帰り着いた俺達は、靴を脱ぐ間も惜しいくらい、激しく求めあった。
縺れ合うようにベッドに身を投じ、まるで獣のようなキスを交わせば、心も身体も全てが歓喜に震えた。
「翔…翔っ…」
「智…っ…」
息を詰まらせ名前を呼べは、熱い吐息と一緒に俺の名を呼んだ。
でもそれだけじゃ全然足りなくて…
「もっと…、もっと呼べよ…、俺の名前を…呼んでくれよ…」
そしたらきっと俺、忘れないから…
お前との時間も、お前に愛されたことも…、それから…
「愛…してる…、しょ…ぉ…、愛してる…」
ほんの一瞬でも、お前を愛せたことを…
きっと忘れないから…
朝日が昇ると同時に目を醒ました俺は、気怠さの残る身体に鞭を打って、翔のために朝飯を用意した。
「たまには白米と味噌汁の朝飯が食いたい」
パンとコーヒーを前に、いつもそう言っていて翔のために、飯を炊き、味噌汁を作った。
それが、俺なんかを愛し、俺に生きる喜びを教えてくれた、翔へのせめてもの恩返しだと思って。
翔は炊きたての飯と、湯気の立つ味噌汁を前に、満面の笑みを浮かべると、ガキ大将の如く飯をかっ食らった。
「やっぱ、うめぇ〜」
なんて、顔をだらしなく綻ばせながら…
「当たり前だろ、愛情詰まってんだから」
きっとこれで最後だから…
「つか、飯粒着いてるし…」
口の周りに着いた飯粒を指で摘み、何の躊躇もなく口に入れる俺を、翔が見つめる。
その目がどこか寂しげに見えたのは、きっと俺の気のせい…だろう。
「じゃあ、俺先出るから…」
「うん、俺も後から行く」
支度を済ませた翔を玄関まで見送る。
こんな風に翔を見送ることは、もうないんだ…
そう思うと目頭が熱くなる。
「行ってくる」
「うん…」
翔が俺に背を向け、ドアノブに手をかける。
でもドアは開かれることなく、翔は俺を振り返ると、
「忘れ物…」
そう言って俺に一つキスをした。
「じゃあな…」って…
「ばか…、いつもキスなんてしたことないのに…」
そんなことされたら…、別れるの余計に辛くなるのに…
ドアが閉まった瞬間、俺はその場に泣き崩れた。