第14章 Separation…
「ぷはぁ、うめぇ」
乾いた喉を通る、キンとした冷たさと炭酸の刺激が、火照った身体に染み渡る。
俺は一気にジョッキの半分くらいを飲み干すと、一品料理のメニューを手に取り、カウンターの奥に引っ込んだ店員を呼んだ。
頼んだのは、海鮮を中心とした翔の好物ばかり。
あっという間に小さなテーブルの上は、次々運ばれてくる料理で一杯になった。
「こんなに誰が食うんだよ」
「ん? そりゃ決まってんだろ…?」
俺が同年代の奴らに比べ、食が細いことを知らない翔じゃない。
当然のように箸を手に取ると、
「だよな?(笑)」
貝の刺身を摘まみ、一口で頬張った。
「うんめぇ~」
「マジで?」
良かった…、翔のその顔が見たかったんだ。
翔の幸せそうな顔…それが見れただけで、もう十分だ。
「ほら、お前も食えよ。うめぇぞ? あ、但し…だ、あんまり食い過ぎるなよ?」
「分かってるよ。腹の出たストリッパーなんて、誰も見たくねぇから、だろ?」
尤も、俺がストリッパーとしてステージに立のは、恐らく…明日が最後だろうけど…
正直、その先のことを考えると、不安ばかりが胸に募る。
踊ることだけが俺の生きる理由だったのに、それを取り上げられてしまったら…
怖くて怖くて堪んねぇよ…
「どうした、食わねぇのか?」
箸を持ったまま、一向に料理に手を付けないでいる俺を、頬をパンパンに膨らました翔が覗き込む。
ダメだ…、今は考えるのはよそう。
先のことを考えるよりも、今は翔との時間を…、翔と過ごす最後の時間を大事にしたい。
「な、なんでもねぇよ…。つか、ガキかよ(笑)」
ともすれば泣き出しそうな顔に無理矢理笑みを浮かべ、翔の唇の横に着いたケチャップを指で拭い、舌でペロリと舐め取った。
「ったく、三十路間近のおっさんのくせに、食い方丸っきりガキなんだから…」
明日になったら、どんなに俺が願っても、もうこんなことしてやれねぇのに…
俺は翔…お前の前からいなくなるんだから…