第14章 Separation…
俺は最後の舞台の前日、翔が仕事を終えるのを待って、駅前の居酒屋へと誘った。
ニノとは何度か行ったことのある店だ。
面倒くさがりの翔は、
「家の方がゆっくり飲める」
当然のようにそう言ったが、俺は引き下がることなく、車に乗り込もうとした翔の腕を引き、半ば強引に駅までの道程を歩き始めた。
周りに人がいないことを良いことに、しっかりと手を繋いで…
「なんつーか…、デートみたいだな?」
「そ、そう….だな…」
翔が照れたように笑うから、俺まで照れてしまう。
「ま、たまにはこういうのも悪くないか。な、智?」
「う、うん…、まあ…そうだな…」
俺を見る翔の目が、あまりにも優しくて…、なんだか泣きそうになる。
ずっとこうしていられればいいのに…
本当は、ずっと翔とこうして手を繋いで、一緒に歩きたいのに…
口に出来ない言葉が、まるで壊れたCDプレーヤーのように何度もリフレインする。
そんなこと望んじゃいけないのに…
それきり会話もないまま居酒屋の暖簾を潜った俺達は、店の一番奥のテーブルに座った。
「どうする、何飲む?」
翔がメニューを差し出して来る。
でも俺はそれに目を通すことなく、注文を取りに来た店員を見上げると、
「とりあえずビールで…」
と告げた。
「じゃあ俺もビールで。…つか、お前おっさんかよ(笑)」
向かい合わせに座った翔が、眉尻を思いっ切り下げ、声を上げて笑う。
「な、なんだよ…、何がおかしいんだよ…」
「だってお前、“とりあえずビール”って、おっさんだろ(笑)」
「う、うっせー。三十路間近の翔に言われたくねぇし…」
プイとそっぽを向いた俺と、涙を流して笑う翔の前に、黄金色の液体と、キメの細かい泡が綺麗な層を作ったビールが運ばれて来る。
翔は当然のようにジョッキを手に持ち、乾杯を求めて来たが、俺はそれに応えることなくジョッキを持ち上げ傾けた。