第2章 Frustrating feeling…
智との生活は長くなる…、そう直感した俺は、智の体調が戻り次第引越しを決めた。
丁度手狭に感じていた頃だったから、良い機会だったのかもしれない。
それから智の身の回りの物も買い揃えた。
智は最低限どころか、何一つ自分の物を持っていなかったから。
唯一持っていたのは、たった一枚の写真だけ。
それも智が写っているわけではなく、一見ハーフと見間違える程の美形の男の写真で、俺は一目見てソイツが、智の言っていた“じゅん”だと確信した。
でなけりゃ何一つ持たない智が、たった一枚の写真を後生大事に持ってる筈がないと思ったからだ。
俺は身の回りの物を揃えるついでに、どこにでもあるような、安っぽい写真立てを買い、そこに写真を飾るように智に言った。
でも智は、
「そんなのいらない」
の一点張りで、皺になるのも構わずポケットに捩じ込んだ。
俺はその時になって漸く気が付いた。
智は写真の中の“じゅん”を見ていたいんじゃなくて、常に身近に感じていたいんだと…
それ程、その“じゅん”て奴は智にとって特別な存在なんだと…
でも所詮は紙だ。
ずっとポケットに入れていれば、所々色だって褪せるし、破れたりもする。
見兼ねた俺は、
「智の気持ちは分かる。でもな、一枚しかないんだろ? だったらボロボロになる前に、写真立てに飾った方がいいんじゃないか?」
破れた箇所をテープで補修する智に言った。
「そう…だよね…。俺も分かってんだけどさ、でもどうしても手放せなくて…」
智は所々テープで補修した跡を指でなぞった。
愛おしそうな、でもどこか寂しそうな目をして…