第2章 Frustrating feeling…
智はそれから三日三晩高熱で魘され続けた。
その間俺は、公演と公演の合間の僅かな時間を、マンションと劇場の行き来の繰り返しに費やした。
病人を一人で部屋に残しておけるほど、俺は冷たい奴でもないから…
昔っからそうだ。
俺は捨て猫だとか捨て犬を見つけると放っておけなくなる性質(たち)で、拾って帰ってはクローゼットに隠して飼ったりもした。
でもそれも最初だけ。
飽きたら全く未練なんて感じることなく捨てた。
だから智のこともきっと…
そう思っていたのに、漸く眠りから覚めた智の目を見た瞬間、俺コイツ捨てらんねぇ…、そう思った。
智の目が、道端に捨てられていた犬や猫以上に深い悲しみを宿していたから…
「お前、名前は?」
「さと…し…、おお…のさと…し…」
初めて聞いた智の声は、酷く掠れていたけど、それでもその声一つで頭の芯が蕩けてしまいそうな、甘くて透き通るような声だと分かった。
「家は?」
見たところ家出少年のようには見えるけど…
「それと歳は?」
「歳は十…七…、家は…ない…」
やっぱりか…
つか、この童顔だから、当然未成年だとは思ってたけど…そこまで若いとは…
余程の訳あり、ってことか…
「行く当ては?」
無いだろうと思いながらも、一応聞いてみる。
すると智は瞼をそっと閉じ、その端から綺麗な雫を一粒零し、
「じゅ…のとこ…に行きたい…」
声を詰まらせながらそう答えた。
その顔が途轍もなく悲しく見えて、
「わ、分かった。連れてってやるから、兎に角今は身体治せ。な?」
俺はその言葉の意味も深く考えないまま、気付けば際限なく流れ続ける智の涙を、指の腹で拭っていた。