第2章 Frustrating feeling…
あの頃の俺は、親父から劇場の運営を任されたばかりで、それまで学生生活をここぞとばかりにエンジョイしていた俺は、右も左も分からないままに与えられた支配人と言う座に、半ば辟易としていた。
そんな時だった、智と出会ったのは…
いや、“出会った”ってのとは違うな…、“拾った”の方が、もしかしたら正しいのか…
智は今日と同じ、激しく降る雨の中傘も差さず、ただ虚ろな目で空を見上げていた。
俺はそれを少し離れた場所で車窓から眺めていた。
けどいつまで経っても智がそこから動く気配はなくて、
声をかけようか…
それとも傘を貸してやるべきか…
一人考えあぐねていると、不意に智の姿が視界から消えた。
「えっ…、マジかよ…」
俺は車を飛び出すと、ジャケットで雨を避けながら、道端に倒れ込んでいる智に駆け寄った。
「おい!」
既にずぶ濡れの智を抱き上げ、冷たくなった頬を手で叩いた。
でも智からの反応はなくて…
「嘘だろ…、死んでんのか…?」
不安になって口元に頬を寄せると、微かに息をしているのが分かった。
「ちっ…、なんなんだよ…、ったく!」
一人悪態をつきながらも、ずぶ濡れの智を放って置くことも俺の性格上出来ず…
俺は智を背中におぶると、車の後部座席へと運んだ。
「一晩だけだかんな、いいな?」
意識が戻ったらとっとと帰って貰えばいい…
今の俺には、自分のことだけで手一杯で、他人を構ってる余裕なんてないんだから…