第12章 Goodbye, and ...
見知らぬ部屋と、隣で大鼾(いびき)をかく見知らぬ男の寝顔…
夢を見ているんだと思った。
でも恐る恐る伸ばした手が男の顔に触れた瞬間、それが現実なんだということに気付いた。
なんだ…、死ねなかったのか…
深い溜息を一つ落とすと、気怠さの残る身体を起こし、辺りをグルリと見回した。
ここ…、どこだ…?
シックな家具で揃えられた部屋には不釣り合いな、あちこちに散らばる、脱ぎ捨てられた衣類と、雑然と積み上げられた本…
そして吸い殻が山になった灰皿と、幾つも並んだマグカップ…
それだけで明らかにプライベートな空間だと分かる。
つか…、汚ねぇ…
俺はそっとベッドから抜け出ると、踏み場のない床に足を下ろした。
「えっ…、なんで…?」
その時になって漸く、自分が下着すら身に着けていないことに気が付いた。
嘘だろ…、俺まさかコイツと…?
愕然としながら、首だけで後ろを振り返り、気持ち良さげに大鼾をかく見知らぬ男をまじまじと見下ろした。
いや…、そんな筈はねぇ…
大体身に覚えもないし、そもそも“あの後”に来る身体の違和感も全くない。
間違いない、俺はコイツとはヤってない。
でもじゃあなんで裸なんだ…?
説明のつかない疑問を頭の中で繰り返し、俺は床に散らばった服の中から、自分の服を見つけ出そうと視線を巡らせた。
そしてやっとの思いでTシャツを見つけ出すと、それに向かって手を伸ばそうとベッドから腰を上げた。
その時、
「もう少し寝てろ…」
不意に掴まれた手首と、少しハスキーががった声に、俺はベッドへと引き戻された。
「ちょ…離せって…」
抱き枕の如く両手両足を身体に巻き付けられ、身動きが取れなくなった俺は、なんとかそこから抜け出そうと必死で藻掻いた。
でも、隆々…とまではいかなくとも、筋肉質な腕と足に動きを封じられてしまっては、俺の抵抗なんて虚しいだけで…
「じっとしてろ…」
低い声で言われ、俺は全ての抵抗を止めた。