第12章 Goodbye, and ...
言われるがまま、抱き竦められたような格好でジッとしていると、再び聞こえ始めた鼾…
嘘だろ…?
振り解こうにも、さっきよりも重みを増した腕は、俺が思うよりもずっと重くて…
コレどうすりゃいいんだよ…
俺は唯一動くことを許された首だけを動かして、鼾の主の顔を見上げた。
潤とはまたタイプの違う、寝顔でも分かる端正な顔立ちと、寝癖はついてるもののサラリと額にかかる前髪。
見たとこ、良い暮らししてるみたいだし…、きっとモテんだろうな。
ま、コイツがモテようがモテまいが、俺には関係のないことだけど…
どうせ俺の命なんて、明日には無くなってるんだから。
ぼんやりとそんなことを考えていた時だった。
それまで耳元で煩いくらいに響いていた鼾がピタリと止み、背中にあった腕がゆっくりと動いた。
「見とれてんじゃねぇよ…」
「み、見とれてなんか…ねぇし…」
「ふーん…、じゃあ…」
後頭部を撫でていた手が頬へと移り、親指の腹が俺の目尻を掠めた。
「何でそんな顔して泣く…」
えっ…?
クッキリとした二重に縁取られた目が、まるで俺を憐れむかのように見つめる。
人に憐れんで貰う資格も、まして生きている資格も、潤を殺した俺にはありはしないのに…
「死なせてくれ…」
ポツリ呟いた俺の一言に、見開かれた目が一瞬険しく細められる。
そして短く息を吐き出すと、それまで俺の足に絡めていた足を解き、ベッドヘッドに凭れかかるように身体を起こした。
サイドチェストに手を伸ばし、シガーケースから取り出したタバコを咥え、ライターで火を付けた。
一気に辺りを漂い始めたタバコの煙が、目に染みる。
「死にたきゃ死ねばいい。俺は止めはしねぇから…」
たまたま道端で倒れてたのを拾っただけだから…
そう付け加えると、男は吸い込んだ煙を一気に吐き出した。
「但し、借りた恩はキッチリ返してからにしろ」
「えっ…?」
「本気で死にたきゃ、別にそれからだって遅くはねぇだろ?」
今思えば、あの時の翔の一言がなければ、死への欲望に突き動かされるまま、俺は自ら命を絶っていたのかもしれない…