第12章 Goodbye, and ...
行く宛なんてなかった。
ただ少しでも潤に近付きたくて、潤に近付ける場所を求めて、行先さえ確かめないままに夜行バスに乗った。
シートに深く背中を埋めると、あっという間に睡魔が俺を襲った。
疲れた…
それ程大きな外傷も無かったものの、数日間の入院生活は俺からかなりの体力を奪っていたようで…
俺は静かに瞼を閉じると、心地良いバスの揺れに身を委ねた。
そうしてバスに揺られること数時間…
カーテンの隙間から差し込む日差しに目を覚ました俺は、程なくしてバスが停まった見ず知らずの街に降り立った。
「これからどうすっかな…」
何気なく呟いた一言に、思わず笑いが込み上げてくる。
“これから”なんて考える必要ないのに…
俺が向かってるのは、潤がいる所…そこしかないから…
俺は見知らぬ街を、ただ死に場所だけを探して彷徨い歩いた。
でも…
いざ高層ビルの屋上に立ってみると、思った以上の高さに、恐怖のあまり足が竦んだ。
情けねぇな…、俺…
自分自身の心の弱さを自嘲しながら、少しだけ近くなった空を見上げた。
そこには、潤の命を奪ったあの日と同じ、深いグレーが広がっていて…
俺は咄嗟にその場から離れると、エレベーターを使って地上に降り、ビルの外へと飛び出した。
ポツリ…、またポツリと落ちてくる雫が、まだ記憶に新しいあの日の光景を、より濃く思い出させる。
やめろ…、潤を連れてかないでくれ…
やがて強くなった雨足は、俺から体温を奪い、絞れる程に濡れて重くなった服は、残り僅かな体力さえも奪っていった。
なんだ、簡単なことじゃん…
俺はフラフラとした足取りで車道に飛び出し、激しく雨粒が打ち付ける地面に身を横たえた。
これでやっと潤の所に行ける…
俺は全ての世界から遮断するように瞼を閉じ、耳を塞いだ。
そんな俺を拾ったのが、たまたま車で通りがかった翔だった。