第12章 Goodbye, and ...
俺の怪我はそう大したこともなく、検査の結果も良好だったことと、目立った後遺症も見られなかったことから、三日を過ぎた頃には退院が決まった。
「運が良かったのね」
退院の準備をしながら、そう言って母ちゃんは笑った。
聞けば、俺達を跳ねたのは4トンのトラックだったそうだから、言われてみればそうなのかもしれない。
でも、だとしたら潤は?
アイツは見た目は派手だったけど、俺なんかよりもずっと良い奴だったし、何より優しい奴だった。
友達だって少なくはなかった筈だ。
なのに俺だけが残った。
本当に死ななきゃいけないのは、アイツを裏切った俺の方なのに、どうして神様は俺ではなく、潤を選んだんだろう…
俺なんて生きてたってなんの価値もない人間なのに…
いっそのことアイツの所に行ってしまおうか…
そうしたら、俺は俺自身を許せるのかもしれない。
「じゃあ、明日の朝迎えに来るからな」
「大人しくしてるのよ、いいわね?」
消灯時間が迫り、そう言って部屋を出て行った父ちゃんと母ちゃんを見送った。
それから暫くして、俺は病院から誂られた寝巻きを脱ぎ、母ちゃんが用意しておいてくれた私服に着替えた。
引き出しの中に仕舞ってあった財布を開けると、そこには上京するための資金が、額はそれ程大きくはないが、そのままの状態で残っていた。
俺は財布をジーンズのポケットに捩じ込み、枕元に置いたスマホを手に取った。
…けど、すぐに引き出しの奥へと仕舞った。
もう必要ないから…
「あ、そうだ…」
俺は思い出したようにカバンの中を漁った。
「あった…」
それは、俺たちが”お試し”ではあったが恋人としての付き合うようになってすぐ、潤がくれた一枚の写真で…
何を思ったのか、おどけた笑顔の潤が一人で写っている物だった。
「待ってろ…、俺もすぐ行くから…」
俺は潤の写真を財布と一緒にポケットに入れると、静かに夜の病院を抜け出した。